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時代を語る 林忠彦の仕事 の商品レビュー

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2019/04/26

林忠彦(1918~1990)は昭和を代表する写真家の1人である。 彼の代表作は、何といっても本書の表紙にもなっている、銀座のバー「ルパン」での作家・太宰治の1枚だろう。 写真は一瞬を切り取る。 その人らしさを捉えた一枚に至るには、人の内面に切り込んでいく気魄と、本質を捉える眼力が...

林忠彦(1918~1990)は昭和を代表する写真家の1人である。 彼の代表作は、何といっても本書の表紙にもなっている、銀座のバー「ルパン」での作家・太宰治の1枚だろう。 写真は一瞬を切り取る。 その人らしさを捉えた一枚に至るには、人の内面に切り込んでいく気魄と、本質を捉える眼力がいる。 林は人物写真を撮ることを「決闘」に譬えたという。それは被写体と写真家との火花の散るような「果し合い」なのだ。 本書には林の代表的な写真を収める。 駆け出しであった頃の戦中・戦後の日本、そしてアメリカのドキュメント。 円熟期の「日本の作家」「日本の画家」「日本の家元」といった人物像シリーズ。 晩年の東海道や長崎などの風景写真。 作家のポートレートとしては、酒場の太宰のほか、足の踏み場もない仕事場の坂口安吾、特急「はと」でポーズを取る内田百閒、縁側に座る幸田文、横顔の志賀直哉、ちょっと艶めかしい瀬戸内晴美、谷崎潤一郎の横には松子夫人、白馬にまたがる三島由紀夫。 どの作家も直接知るわけではないのだが、いかにも「その人らしい」と思わせる1枚になっている。 個人的には、戦中・戦後のドキュメントをもっともおもしろく見た。 戦時、訓練や演習に励む人々、割烹着を来た大日本婦人会。 戦後、復員兵や浮浪児、配給に並ぶ人たち。 戦時下の不安の中にもどこか高揚感が感じられ、一方、戦後の窮乏下でもしたたかに生き抜く庶民がいる。 林のファインダーは人々の生命力を鮮やかに切り取る。 この人はおそらく、人間が好きだったのだろうと思う。 晩年の、人が写っていない風景写真にも、どこか人の営み、息遣いが感じられる。 昭和の熱気を時代とともに駆け抜けた写真家。 あれこれ背景に想いを巡らせる余地のある、懐深い写真集である。

Posted byブクログ