享楽社会論 の商品レビュー
超良かった。 ラカン派の諸論考や基礎的な文脈に関して無頓着な自分が予想以上に前のめりでエンジョイできたのは嬉しい。 理論的な座学や活字にだけ頼るのではなく、著者の社会に対する一思想、実践的経験をもとに熱意を持って書かれている文章はやっぱり読んでいていて気持ちいい。 見る、見られる...
超良かった。 ラカン派の諸論考や基礎的な文脈に関して無頓着な自分が予想以上に前のめりでエンジョイできたのは嬉しい。 理論的な座学や活字にだけ頼るのではなく、著者の社会に対する一思想、実践的経験をもとに熱意を持って書かれている文章はやっぱり読んでいていて気持ちいい。 見る、見られるの関係、柳田國男の分析、レイシストの心理を解剖していく=自己の内面への踏み込み、色々興味深いトピックがあるものの、精神分析という西洋生まれの学問が、アクチュアルな効果を現代人に与えうるのか、という苦悶が細かい筆致から伝わってくる。 ラカンという時代の寵児的存在が生み出した思想の痕跡が、平板化、数値化、0、1の二進数アルゴリズム世界のオルタナティブにいかにしてたどり着けるのか? 主体の欲望が際限なく満たされ続ける現代を、ラカン派の視点から読み解く本著は気持ちいい。 松本先生もっと読みます。
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現代ラカン派の「享楽」というキーワードを現代の精神医学や政治と絡めて論じた刺激的な一冊。 著者によるラカン派精神分析の説明は「人はみな妄想する」に引き続きラカンを主題にしているとは思えないほど飲み込みやすい。 特に本書では現代型うつ病や、レイシズム・極右の勃興、反安倍などの身近な...
現代ラカン派の「享楽」というキーワードを現代の精神医学や政治と絡めて論じた刺激的な一冊。 著者によるラカン派精神分析の説明は「人はみな妄想する」に引き続きラカンを主題にしているとは思えないほど飲み込みやすい。 特に本書では現代型うつ病や、レイシズム・極右の勃興、反安倍などの身近な社会の動きを例に「享楽」という考え方を知ることができる。 後半の政治にまつわる章はジジェクやラクラウ、ムフ、スタヴラカキスあたりのラカニアンレフト政治学についての簡潔な入門としても使えるだろう。 現代におけるラカン派の射程を知るのに非常に参考になった。
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「享楽」というキーワードにもとづいて、後期のラカンやミレールを中心とする「現代ラカン派」の思想の意義を測定する試みです。 本書は、前著『人はみな妄想する―ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(2015年、青土社)と並行して書かれた論文を集めたもので、「理論」「臨床」「政治」という...
「享楽」というキーワードにもとづいて、後期のラカンやミレールを中心とする「現代ラカン派」の思想の意義を測定する試みです。 本書は、前著『人はみな妄想する―ジャック・ラカンと鑑別診断の思想』(2015年、青土社)と並行して書かれた論文を集めたもので、「理論」「臨床」「政治」という三部構成になっていますが、第一部の「理論」に収録されている論文において、ラカンの後期の思想が解明されています。 ミレールは、エディプス・コンプレックスにおける「父」のような象徴秩序を統御する第三項が機能していたフロイトの時代とは異なり、現代では「父」が複数化し、象徴界の機能不全に陥っていると主張します。このような時代においては、かつてラカンが象徴界に参入することと引き換えに断念された「享楽」が全面的に解放されることになり、フーコーの生権力論において批判されているような社会がもたらされることになると著者は考えています。本書のタイトルになっている「享楽社会」とは、このような社会のありかたを意味しています。 こうした本書の枠組みのなかでは、かつてのラカン思想の批判者だったドゥルーズ=ガタリも、「現代ラカン派」と共通の問題意識をもつ思想家として理解されることになります。ただ、本書におけるラカンのキルケゴール解釈を見るかぎりにおいては、いまだドゥルーズ=ガタリの提出している「n個の性」の立場とはへだたりがあるように感じられます。キルケゴールが、レギーヌ・オルセンを欲望の対象としてまなざす立場からしりぞくことによって「神の愛」の立場へといたったという解釈は、なお否定神学的な発想をまぬかれていないように思えます。
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