法医学事件簿 の商品レビュー
人の死に直面すると、どの様な状況でどの様に亡くなっていったのか、身内であれば苦しまずに済んだのか、最後の状況を想像してしまう事がある。不謹慎かもしれないし、苦しまずに安らかに逝ってくれたと信じたくなる。実際に自宅で亡くなり、警察署に行って死因を聞いた時は、苦しまずに済んだだろうと...
人の死に直面すると、どの様な状況でどの様に亡くなっていったのか、身内であれば苦しまずに済んだのか、最後の状況を想像してしまう事がある。不謹慎かもしれないし、苦しまずに安らかに逝ってくれたと信じたくなる。実際に自宅で亡くなり、警察署に行って死因を聞いた時は、苦しまずに済んだだろうと結論づけ、死因に記載された病名から目を遠ざける様になった。インターネットや書籍に情報は溢れているから、調べればすぐにわかる事だが、意識的に遠ざける自分がいる。長く遺体安置所に置かれて会うことも叶わず、医師が到着してからものの10分もしないうちに結果を聞いた際は、驚きよりも若干の憤りを感じたことも覚えている(渋滞で遅れたらしかったが)。亡くなった状況を駆けつけた警察からも聞いていただろうし、歳が歳だけに仕方ないと言えば仕方ないが、身内の死とは遺族にとって簡単に片付けられてはならない出来事だ。 仕事柄、人の死ではなく、システムの死に立ち会う事は多い。大袈裟な表現ではあるが、会社のシステムが停止すれば、社内の利用者や社外の関係者、サービスとして利用するお客様などが面倒を被り、ひいては経営に影響する。システムに感情や人の様な生体反応は無いから(異常を示すログやリソースの使用率などの反応は出るが)、極端に応答が遅くなったり、はたまた死を意味する停止が発生しても、無論悲しくは無い。焦りと危機感の中で再生を試みる程度だ。 本書の法医学もプロセスとしてはシステム障害に立ち向かうシステムエンジニアに似ている部分が多いと感じる。年間100件を超える大小様々なシステムトラブルを目にし、その発生プロセスや暫定対応のあり方、再発防止に向けた原因特定と恒久対策について分析している。大半システム開発やら企画やら保守作業などで手一杯の社員が片手間でそれを片付けようとするから、分析も考察も不十分で、結果的に有耶無耶の状態で「動いてるから良いんじゃない?」程度の処置しかされない。 本書では繰り返し真実に迫る事の重要性が説かれており、それは未知なる犯罪の防止に繋がると訴えられている。正にその通りである。死因が曖昧なままでやり過ごされて仕舞えば、死という結果に繋がった経緯や原因が正しく解明されず、同じ事が繰り返される可能性を排除できない。逆にどんな小さな痕跡も見逃さず、真の原因が解明されるなら、再発を抑止できる。それは生きている人間に対する、発生処置的な対応(手術などの治療)よりも、それに至らせない(病気にさせない)点で、より重要性が高く意義のある行為ではないかと感じる。 システムも同じである。障害という結果から、正常な状態に対して、加えられた操作や行為を特定する事は、会社の経営と一体化したITを死に至らしめない、安定稼働させる意味で、経営上非常に重要な行為である事に間違いない。とは言っても忙し過ぎて、そこにかける時間もなく、諦めや障害自体に慣れっこになってしまった組織なら、真面目に取り組まれる事はあまり無いだろう。何となく回復した状態で、それ以上の追求をやめてしまう。火葬されてお墓に入れば、真相は闇の中に葬られるのと一緒だ。そして忘れた頃に同じような経緯でシステムは繰り返し停止する。 法医学は未だ未だマイナー分野であり、それを専門とするには学びたい人と育てる環境が必要だ。それと同じ様に、一見するとシステム障害から復旧させたり、それを未然防止できるプロの育成は重要だ。社内には5年ほど前から、部の有志を集めた「品質向上プロジェクト」を立ち上げ、同じ想いを抱くメンバーと、日々システム障害発生防止に向けた取り組みを行ってきた。最近は活動虚しく、システム数増加や納期優先のシステム開発の波に飲み込まれ、障害発生数は増加の一途を辿る。メンバー自身も忙しく、そこにかける時間も労力も限定的だ。こうなったら専門組織化を狙いたい所だが、私自身の組織起案能力が低く、「未だ」実現に至っていない。 人の死という結果が生前を明らかにする様に、システム停止という結果から、安定稼働のヒントを得る事は十分可能だ。そのためのログもモニタリング結果も、プロセス調査用のシステムも揃えた。後は結果に繋げるだけなのだが、障害という結果はわかりやすくても、障害に至っていないという事実に目がいく事は少ない。人が亡くなってから、生前の不摂生ぶりに気づいたり、飲んでいた薬に気付く様なものだ。生きている日々を知り、最後の結果から真実と教訓を得る、こうした活動をもっと評価し、それに見合う報酬があって然るべき社会にならなければ、大切なものを知らず、気付かず、見向きせず生きてしまいそうで怖い。
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上野先生の本は何冊も読んでいますが、どれも同じような内容に触れています。しかし、今回は比較的新しい事件に関しての法医学的な鑑定が題材にされており、記憶に新しい事件ばかりなので、興味深く読むことが出来ました。監察医として働く医師の少ないことが日本の現状としてあり、そのことが他殺を事...
上野先生の本は何冊も読んでいますが、どれも同じような内容に触れています。しかし、今回は比較的新しい事件に関しての法医学的な鑑定が題材にされており、記憶に新しい事件ばかりなので、興味深く読むことが出来ました。監察医として働く医師の少ないことが日本の現状としてあり、そのことが他殺を事故や病死として処理されてしまう現状があるということが怖いと思いました。
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テレビでも取り上げられていた事件にまつわる話もいくつかあったので、わかりやすかった。監察医制度が重要なことは分かるし、経験がものをいう世界であることもわかるんだけれど、なんとなくくどいなあ、と感じる部分も多かった。
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全然泣きませんでしたが、少し疲れた顔してたのではと思いました。保育園から出ると窓から赤ちゃんだという声がしました。
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解剖は全国どこでもやっているのかと思ったらそうでもないのはびっくり やはり先立つものは金か 死者の人権という概念はいいと思う
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人が死に至る過程には数々のドラマがある。殺人事件が減少したとかニュースで聞いたが、実は見逃されている殺人が相当数あるはず。人に殺されて病死扱いされては全く浮かばれない。方位学と間違えられるほど遅れているのが日本の現状。
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死体の声を聞け! 難事件の殺害の手口から犯行目的まで、検死2万体以上の死者と関わった監察医の著者が法医学を駆使して暴く。
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文字通り、死体について法医学者の上野正彦が綴った一冊。 他の本と多少被る箇所はあるものの、死体についての絵があったのでわかりやすかった。
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