アーレントのマルクス の商品レビュー
新しい世代のアーレント研究家による研究本。 帯にある「アーレントはなぜこれほどまでにマルクスを「誤読」したのか?」というキャッチフレーズに惹かれて読んでみた。 ある程度、アーレントの本と解説本を読んでいるためかもしれないが、説明はとてもわかりやすいと思った。 「全体主義の起...
新しい世代のアーレント研究家による研究本。 帯にある「アーレントはなぜこれほどまでにマルクスを「誤読」したのか?」というキャッチフレーズに惹かれて読んでみた。 ある程度、アーレントの本と解説本を読んでいるためかもしれないが、説明はとてもわかりやすいと思った。 「全体主義の起源」の出版後、アーレントはマルクス研究を行うのだが、研究するなかで、マルクスに対して批判的になっていき、そこから独自の思想を生み出し、それが「人間の条件」に結実するという話は、これまでもアーレントの評伝などで読んだことがある。この本では、具体的にアーレントがマルクスのどういうところを評価し、また批判して、自身の思想を生み出していったかというプロセスを丹念に描いている。 そして、アーレントのマルクス理解は、マルクス学者には、誤読としか言えないものであり、おそらくそれは正しいのだが、この本では「誤読」は「誤読」としながらも、そこからどういう思想が生み出されたのかというスタンスで書かれているところが極めて刺激的である。 そして、この議論を丁寧に追っていくなかで、アーレントとマルクス、そしてフーコーの「生政治」論がかなりのところまで共通性があることが浮かび上がっていく。それらは矛盾するものというより、同じような問題を違う角度からみている、相互補完的なものに思えた。 とくにマルクスについては、近年、いわゆるマルクス主義的な理解から距離をおいたマルクス自身のテクストにもとづく研究が進んでいるが、それらの研究との接続可能性も強いように思った。 アーレントとマルクスを重ねることで、アーレントの「政治」を中心にした思想とマルクスの「経済」を中心にした思想が現代社会を読む力強い視点になりうると思う。とくに新自由主義の進展によって、「人間の条件」が切り崩され、人間が全人的に資本主義のなかに包摂される。そして、すべてが「労働」、「生産」、「消費」という動物的な状態に囲われていくように思える状況が、次の「全体主義」を生み出すリスクを孕むものであることが、リアリティをもって感じられた。 その他には、アーレントを読んでいて、長年、位置付けがわかりにくかった「社会」の問題や「労働」と「仕事」の関係などがかなりすっきりとした。 さらに、この本では、アーレントの思考を整理するだけではなく、今日的な文脈のなかで再解釈する試みもなされており、これまではあまり議論されていなかった「仕事」の重要性を強調しつつ、「仕事」と「活動」の相互関係、そして「労働」まで含めたところで、この3つのバランスをとることの重要性への言及など、ある意味、当たり前の話しではあるが、アーレントの議論をわたしたちの日常につなげていくヒントがあると思った。 アーレント関係の本で、最初に読むものではなさそうだが、「全体主義の起源」、「人間の条件」あたりの主著のあとで、読むとかなりいいのではないかと思う。
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消費をするための労働、創造するための仕事、 他者と繋がるための活動を区別するという発想が今後の人生に活かせそう。 資本主義、帝国主義、全体主義への理解も深まった。
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同級生が書いた本。こんな立派な本を出すなんて、友人として誇りです。見事に、活動を仕事を通じて作品化してるなぁ。アーレントについてもう少し知りたくなりました。
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