色川武大・阿佐田哲也ベスト・エッセイ の商品レビュー
7つのテーマ(時代、博打、文学、芸能、ジャズ映画、交遊、食)で構成されたエッセイ集。 「わたしの旧約聖書」が良かったのでエッセイを読んでみることにした。7つのうち時代、博打、芸能、交遊が良かった。単に素人でも分かりやすい題材であり、分かりやすい書き方がされてただけだとは思うもの...
7つのテーマ(時代、博打、文学、芸能、ジャズ映画、交遊、食)で構成されたエッセイ集。 「わたしの旧約聖書」が良かったのでエッセイを読んでみることにした。7つのうち時代、博打、芸能、交遊が良かった。単に素人でも分かりやすい題材であり、分かりやすい書き方がされてただけだとは思うものの、時代や博打のテーマに関しては筆圧というか何と表現していいのやら、教訓めいた「骨」を感じるものでした。 特に時代や博打の章にぶら下げられた文章は、筆者の「行って帰ってきた感」を肌で感じることが出来、その後の決して上品とはいえない無謀で子供じみた振る舞いもどこか第三の筆者が斜め後ろ上空から見下ろしているような印象を受ける。 最も印象的だった表現は芸能の章、左卜全についてのエッセイで、新宿の薄汚く地味でこじんまりとした小劇場に「退屈しにいく」というもの。 私自身、この店のどこに何の魅力があるのかと不思議に思いながら25年ほど通っているところがある。店は古いビルの一室、店自体も引越しも改装もなく40数年の小店。壁も床もボロボロ。椅子は流石に代替しているだろうけれどそれでもグラグラとちょいグラグラがオセロのように並ぶ。 何か面白楽しいことが起きるわけでもない。店の人間とも客とも気の利いた会話も期待出来ず、色恋に至っては微塵もない。クリスタルクリーン。私の人生に第三者監査委員でも入ろうとものなら「これ、何のために通ってるんですか?時間と金と労力の無駄ですよね?」と、最初に疑問、指摘されるだろう。それとも何か違法な事でも疑われたりするのかしら。それ程の無益ぶりだ。 今回このエッセイを読んで、そんな私はこの25年間「退屈するため」にわざわざあの店に通っていたのだと気付かされた。左卜全が居た新宿のうらぶれた小劇場も人で溢れていたように、その店も25年いつもいつも人で溢れている。 私も、他の人たちも、退屈するためにわざわざ苦労していたのだ。 筆者が「じゃない方」や「落ちぶれていく者」への愛着を見せることが多いエッセイだったが、メジャー調に比べマイナー調の趣味性格であることは間違いないとしても、マイナーがごく少数かと問われればそうではなさそうな。今も昔も、あちらにもこちらにも、数多存在する「マイナー」のセンスを的確に表現したものを味わえる本でした。
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