圧力とダイヤモンド の商品レビュー
著者ビルヒリオ・ピニャーラはキューバ出身。 独裁政権からカストロのキューバ革命期にあったキューバでは、貧困、文学趣味、同性愛のビルヒリオ・ピニャーラは、抑圧の対象だった。 作家としても反骨精神を持ち合わせていたらしい。 カストロ政権のもと、同じ時期の作家、レイナルド・アレナスは強...
著者ビルヒリオ・ピニャーラはキューバ出身。 独裁政権からカストロのキューバ革命期にあったキューバでは、貧困、文学趣味、同性愛のビルヒリオ・ピニャーラは、抑圧の対象だった。 作家としても反骨精神を持ち合わせていたらしい。 カストロ政権のもと、同じ時期の作家、レイナルド・アレナスは強制収容所から出たあとアメリカに亡命した。エイズの診断が出たレイナルド・アレナスは自殺前に自伝を書き上げようと決め、キューバで死んだビルヒリオ・ピニャーラの写真を支えとしている。 https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4336037795 === 「地球に対する大いなる陰謀がどのようにして始まったのか、解明されることなど決してないのだろう。でもはっきりしているのは、他ならぬ地球の住人がこの陰謀を企てたのだってことであり、どこか他の惑星の住人は一切関与していないことも明らかだ。」(P11) 「どの議論も陰謀の期限を明らかにしてはいなかったし、どの議論も地球からの人口流出を食い止めはしなかった。」(P12) おお、なかなか面白そうな始まり方。何かが起こり地球から人間が出ていっているらしい。そして語り手の”おれ”は地球に残って陰謀の始まりについて書いているらしい。 ”おれ”はダイヤモンドの仲買人。ことの始まりは街で通りすがりの男に「あなたは人間同士が与え合う圧力についてどう思われますか?」と問われたこと。男は圧力に耐えられないという話を続ける。 ”おれ”は街の人々が徐々に収縮しようとしていることに気が付く。誰とも話をしないために2万人を収容するトランプ施設に集まる人々、何も感じず行ったことすらわからないための旅行という人工冬眠を望む人々。 ある時行われたダイヤモンドの競売会では、最高クラスの名品に誰も関心を示さない。集まった人々はただ、財産の価値がなくなったということを確認するためだけに来ていたのだ。 だが”おれ”は人との関わり、財産の価値、生命への執着を信じている。だからそのダイヤモンドを競り落とし、人々と生きることを説こうとする。 しかし人々は誰かもしれない、だが確かにいる『圧力者』を怖れて、言葉すら忘れてゆく。 人々が集団で<去った>あと、”おれ”はまた人々が生きることの価値観を取り戻し、そして地球に戻ってくると信じている。 「この考えが俺に生き続ける勇気を与えてくれる。人間の善意を信じること、それこそが俺にとっての最後の幻想となるだろう」(P157) === この話を書いたときのビルヒリオ・ピニャーラは、カストロ政権の抑制の元のキューバに残り、作家活動も制限されていた。 本作「圧力とダイヤモンド」の、人々が生きる価値を見失い収縮し、去ってゆく、だがいつか帰ってくるだろう、という内容と、作者本人とを重ねて良いのだろうか。 キューバに残ったビルヒリオ・ピニャーラ自身はかなり厳しい環境にあったが、小説としては決して圧迫に満ちているわけでもなく、どこかしらユーモラスさも感じる。 それが反骨精神の現れかもしれないけれど。
Posted by
市民を知らぬ間にがんじがらめに縛っていくものの正体が「圧力」「圧力者」として描かれる。原文を読むことは叶わないが、この「圧力」という言葉がが直訳なのか、訳者が悩んで当てた訳語なのか、そこらへんは不明だが、全編を通してこの語の選択の違和感、異物感が拭えなかった。 またこれは単なる...
市民を知らぬ間にがんじがらめに縛っていくものの正体が「圧力」「圧力者」として描かれる。原文を読むことは叶わないが、この「圧力」という言葉がが直訳なのか、訳者が悩んで当てた訳語なのか、そこらへんは不明だが、全編を通してこの語の選択の違和感、異物感が拭えなかった。 またこれは単なる好みの話だが、作者のおかれた政治的状況を理解してから読むことが前提の小説は、窮屈。 本作は、キューバの抑圧状況を揶揄するような作りだが、直接的批判は作家の命に関わる状況であることは想像でき、その割にほとんど直喩ではないかと思われる批判っぷりに蛮勇を感じる。 それ故か、文の「芸」としての楽しみは交換条件として失われている印象。 やや乗り切れなさを感じながらページをめくったのだが、最後の一文にはやられた。この一文のために、それまでの150ページはわざと冗漫にしたの?という思い。キューバの詩が生きていた。
Posted by
圧力に怯える人々。その中でただ1人主人公はその理由が理解できず、圧力そのものが何なのかわからないという世界。圧力によるストレスで皆アホな行動に走る。会話したくないからガムを噛みながらトランプ。狭い個室スペースにわざわざ入る。冷凍される。ゴム袋に入って集団自殺。最後まで主人公は屈し...
圧力に怯える人々。その中でただ1人主人公はその理由が理解できず、圧力そのものが何なのかわからないという世界。圧力によるストレスで皆アホな行動に走る。会話したくないからガムを噛みながらトランプ。狭い個室スペースにわざわざ入る。冷凍される。ゴム袋に入って集団自殺。最後まで主人公は屈しないどころか、あいつらはなんてアホなんだよ、とクールな姿勢のまま終わる。政治的な圧力の比喩なんだと思われるが、コメディっぽい文体で難なく読み終わった。もっとください、この人の本。とりあえず友達のレイナルド・アレナス読んでみよう。
Posted by
- 1