歌集 世界はこの体一つ分 の商品レビュー
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1982年生まれ、音大に通って博士号を取得した川口慈子さんの、2003年から2016年までに詠んだ402首をほぼ編年体で収めた歌集。 目立つ装丁と、タイトルに惹かれた。 音大生の青春のときが閉じ込められていて、みずみずしく、ほろ苦さを含みながらも甘酸っぱい気持ちにさせられた。 音楽に関連した歌が多く、音楽家というのは本当に、日常に音や音楽を全身で感じているのだなと、思った。 川口さんはご両親が短歌が好きで、小さな頃から歌集に囲まれて育ったそうだ。 うらやましいかぎりなのだが、ご本人には、ピアノも短歌も自分で進んで選びとった道ではない、という葛藤があったようだ。 環境にもご友人にも才能にも恵まれた存在など、自分と掛け離れたひとだなと、思ったのだけれど、一気に親しみが湧いた。ピアノと短歌のことじゃなく、自分で選んだ道だという感覚が薄いところがです。 人間、属性だけ見ていても、何も分かったことにならないのだな。 いちばん好きなのはタイトルに引用されている 【真夜中のシャワーがどこまでも響く 世界はこの体一つ分】 なのだけど妙にあと引くのは 【電線にボラギノールの形して鳴く山鳩は大嫌いです】 かな。ボラギノール、たしかに。 【真夜中の〜】は、ほんとそう、と思った。 「体一つ分」以外は、世界の外、なんだよなあ。 と、思うと、自分の体がとても貴重で愛しいものに思えてきます。あと、孤独ですよね。 同じように他者の中にも「体一つ分」の「世界」が存在してるわけですよね。 その存在が数えきれないほど生まれ、死んでいって、今がある。 うーん、壮大すぎて想像が追いつかないなあ。 よく見ると何を描いてるのかよく分からない装丁。 私には蜜柑色の水玉怪獣に見える。 ふたつの銀色の丸が目玉ね。 気になった歌に極細付箋を貼付けていたら、その怪獣の髪の毛みたいになって妙に可愛らしいです。 ❇水玉怪獣じゃない気もします。
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