重加算税の実務入門 の商品レビュー
本書は重加算税の賦課要件、そして重加算税に言及した裁決、裁判例を整理し、税務調査の現場での実務家としての対応策を検討したものである。平成28年税制改正において加算税制度の見直しが行われている。今後、税実務において加算税制度の取扱いはより一層、重要なものとなると思われる。重加算税に...
本書は重加算税の賦課要件、そして重加算税に言及した裁決、裁判例を整理し、税務調査の現場での実務家としての対応策を検討したものである。平成28年税制改正において加算税制度の見直しが行われている。今後、税実務において加算税制度の取扱いはより一層、重要なものとなると思われる。重加算税に関する豊富な裁決事例を挙げてどのような点がポイントとなり課税が取り消されたのか、または棄却されたのかが具体的に解説されていた。重加算税について税務調査で論点となった場合には本書を参照されることをお勧めする。 P192 国税通則法が改正される以前においては、重加算税の賦課において、納税者が「重加算税の賦課」に関して納得をした場合、税務調査官から、「その行為が不正であった旨」を記載した「陳述書」又は「申述書」といった書面の提出を求められ、署名·押印していたケースがある。いわゆる「一筆重加」という実務上の処理である。 私見としては、この書面の提出により、「隠蔽·仮装行為」についての認識が明確であったことの証明を示すものとして取り扱われているものであったのだろうと理解している。 国税通則法が改正されてから、「陳述書」又は 「申述書」に変わって、質疑応答記録書が作成されるようになり、そこに署名・押印が求められるようになった。また、質疑応答記録書について、「相手の同意を得て行われており、最後に読み聞かせが行われていること、納税者等の署名·押印がなされること、一枚ごとに契印がされること、立会人がいることなどから、任意性は十分担保されており作成過程に照らして証拠能力、証拠価値は高いと裁判所等から評価されている」との指摘もある。 重加算税が問題となるケースは、証遷書類等を廃棄していることがあるため、重加算税の賦課決定処分をする際、税務調査官によって作成された質疑応答記録書が重要な証拠となる。それに署名・押印をする、ということは、重加算税の賦課決定処分の正当性を認めることになる。 私見としては、真実として、隠蔽·仮装行為があり、それを認めて署名·押印をすることは必要であるが、「早急に税務調査を終了させたい」といった理由から、質疑応答記録書に署名・押印をすることは危険である。記載内容について、十分に検討し、納得した場合にのみ署名・押印をするように心がける必要がある。 P212 2「意見書」等の活用 筆者の実務での経験で国税通則法が改正される前のことである。法人税の税務調査において、「棚卸資産の一部計上漏れ」が発覚した。原因は、販売担当者と経理担当者の連絡ミスであり、それが発覚した際の代表者・販売担当者・経理担当者の態度から、連絡ミス、確認ミスであったことは明確であった。直ちに、修正申告することをその場で確約したが、後日、「重加算税の賦課処分の対象である」と言われてしまった。その際に、税務調査時の代表者・販売担当者・経理担当者の態度から、決算整理時の連絡ミスであり、故意による隠蔽・仮装行為はなかったことは明確であることを主張し、後に「意見書」として文面の提出をした。 この件に関して後日、重加算税の賦課処分については、税務調査官側から取り下げられた。筆者が提出した「意見書」に効果があったのかどうかについては定かではないが、納税者として言うべきことは言わなければならない、という(当たり前のことではあるが)ことを身に染みて覚えた出来事である。 国税通則法が改正され、理由附記についても充実してきた現在においては、直ちに、税務調査における非違事項が「重加算税の賦課処分の対象である」と指摘されることはかつてに比べて少なくなったと思うが、仮に、「重加算税の賦課対象である」と指摘を受けた際には、「何が隠蔽·仮装なのか?」「経理誤り、期ずれ、といった税務上の誤りなのではないか?」 といったことを確認し、お互いに納得するように話し合うべきである。
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