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埴原一亟 古本小説集 の商品レビュー

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2024/03/11
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 現在の山梨県出身の作家 埴原一亟の小説7篇を収録。収録作は以下のとおり。   ある引揚者の生活   塵埃   十二階   翌檜   生活の出発   枇杷のころ   かまきりの歌  「古本小説集」と題されているが必ずしも古本/古本屋が物語の要とはなっていない。寧ろ経済的困窮--貧乏をより描いている。  カネが無いのは嫌だが抜け出す算段も無い。纏まった額を手にすれば一生安泰だと思ってしまう。半ば諦めて開き直る瞬間すらある。--少しでもカネに困った経験が有るなら思い当たる感覚を作者は見事に捉えている。読んでいて全然わざとらしいものが無く、空想や他人事とは思えぬ生々しさにぞっとした。殊に「生活の出発」に何度も登場する借金の場面がリアリティーがあり怖かった。  所謂“屑屋”のとある日を描いた「塵埃」と、病に苦しむ妻を救わんとする「枇杷のころ」と、見窄らしい老人の秘密を窺い知る「かまきりの歌」が本書収録作でのお気に入り。貧乏を知っている作者による貧乏の描写には凄みがあるが嫌みは全く無い。この埴原一亟という作家も今後とも読んでいきたい推しとなった。

Posted byブクログ

2021/11/11

台東区から荒川区(たまに墨田区)のあたりをカメラ片手に路地の奥へと散歩する。昔のままそこにある建物から漏れてくるテレビの音や、裸電球と畳の間で薄暮の時間に佇んでいる人。 外に置いてある洗濯機だったり、カップヌードルの鉢に入った植物。色々な生活が道にはみ出している風景のような一冊。...

台東区から荒川区(たまに墨田区)のあたりをカメラ片手に路地の奥へと散歩する。昔のままそこにある建物から漏れてくるテレビの音や、裸電球と畳の間で薄暮の時間に佇んでいる人。 外に置いてある洗濯機だったり、カップヌードルの鉢に入った植物。色々な生活が道にはみ出している風景のような一冊。 強いというのを通り越して、生きるために汚くもなる女の姿に、きっとわたしにもこういう気性があると予感した。 内容とはそれるが、装丁が中身を濃く引き立たせていると思った。(そもそもそれで手に取ったのだ)表面に凹凸のある藍色のカバーを開くと、若草色が顔を出し、帯と本体は深い水色。 後書きにも選者の愛がダダ漏れていて良かった。

Posted byブクログ