カント伝 の商品レビュー

マンフレッド・キューン(著者),菅沢龍文(訳者)

2023/01/29

カント伝でまず確かめてみたかったのは、下世話なことで申し訳ないのだが、例のカントのパンクチュアルな（時間厳守の）散歩のエピソードだ。ところが、このキューン版ではまったく載っていないのだ。もっとも、もっと有名なルソーの著作との関係については書いているのだが。仕方がないから、カントの弟子たちの書いた伝記に当たってみようかな。

2022/01/29

重厚かつ決定的なカントの伝記。カントの暮らしぶりや交友関係について、類書に例を見ないほど詳細な記述があり、ドラマに乏しいとされるカントの生涯にも様々な紆余曲折があったことがよく分かる。カントの伝記の史料として有名な3人の弟子のカント伝に対しても、様々な史料を駆使してそれらの記述や見解を鵜呑みにしない記述が貫かれているのは、本書の大きな特色である。カント哲学の解釈については、当然伝記である以上細かな議論には深入りしてはいないが、特にカント倫理学の中心概念を「性格」に見出す解釈が際立っている。この点は、個々の行為の道徳性だけでなく、人間の「格率」・一貫した態度の形成に焦点を当てる倫理学としてカント倫理学を再構成していることが伺える。