リマリックのブラッド・メルドー の商品レビュー
非常に多様なジャンルの音楽を愛好する著者による音楽論。タイトルは著者が1990年代の終わり頃に、当時滞在していたアイルランドの街リマリックで、まだ若かりし頃のブラッド・メルドーに出会ったことに由来している。本書ではブラッド・メルドーのピアニズムを題材として、彼のデビューから、Ar...
非常に多様なジャンルの音楽を愛好する著者による音楽論。タイトルは著者が1990年代の終わり頃に、当時滞在していたアイルランドの街リマリックで、まだ若かりし頃のブラッド・メルドーに出会ったことに由来している。本書ではブラッド・メルドーのピアニズムを題材として、彼のデビューから、Art of the Trioの活躍や、近年のソロ、現代の誇る天才ジャズ・ドラマーの1人であるマーク・ジュリアナとのデュオなど、その演奏遍歴を辿りつつ、現代のジャズやポピュラーミュージックに関する彼の思弁が展開される。 著者曰く、どんなに刺激的に思われた新たな音楽も、数十年経てば、その先鋭性は消え、古典となっていくという。それはもちろんジャズは言わずもがなであり(1920年代を源流とするジャズが死んだ、と一般的に言われるようになったのはマイルス引退の1970年代だろう)、現代のチャートを賑わすヒップホップについても、1980年代がその起源と考えれば、もうその先鋭性は消えているのもかもしれない。 例えば、ここ数年のヒップホップの顔であったケンドリック・ラマーの新作「Damn」は、各所で2017年のベストアルバムに挙げられているようだが、私見ではそこに面白さは感じられなかった。もちろん、先鋭性がなくとも音楽は死ぬわけではなく、優れた作品は今後もそのジャンルで作られていくだろうが、ついにヒップホップもそういう段階を迎えたのかもしれないなと思うと、感慨深いものがある。 あと、本書は現代ジャズに関するディスクガイドとしても優れている。ブラッド・メルドーの主要作品はもちろんのこと、マーク・ジュリアナ(Dr)、アビシャイ・コーエン(Ba)、ティグラン・ハマシアン(Pf)、ヴィジェイ・アイヤー(Pf)など、ジャズの枠をなお広げようとする優れたミュージシャンが一望できる。
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