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もがく建築家、理論を考える の商品レビュー

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2022/06/01

建築には建築の「言葉」がある。 -------- 近代の矛盾を引き受けてきたからこそ、その中でもがいてきたからこそ日本の建築は面白い、のだそうだ。 丹下健三以降、第二世代として挙げられるのが槇文彦、磯崎新、黒川紀章を中心とした1930年前後生まれの世代。 第三世代は40年代生ま...

建築には建築の「言葉」がある。 -------- 近代の矛盾を引き受けてきたからこそ、その中でもがいてきたからこそ日本の建築は面白い、のだそうだ。 丹下健三以降、第二世代として挙げられるのが槇文彦、磯崎新、黒川紀章を中心とした1930年前後生まれの世代。 第三世代は40年代生まれの安藤忠雄、伊東豊雄の世代。第四は隈研吾、妹島和世、坂茂ら。そして第五世代は塚本由晴や藤本壮介たち。 本書では第五世代は登場せず、磯崎新、香山壽夫、藤森照信、大野秀敏、妹島和世、隈研吾が、それぞれの世代のもがきを語る。 …いや、そんなにもがいているばかりではない。第二世代は、丹下健三の、言ってみれば呪縛にとらわれもがいたのだなと感じるが、妹島あたりになると、前の世代への反発はなく、ただ尊敬していると。 まあ、世代論として読むのか、一建築家の話として捉えるか、それは自由なのだろうが、本書はそれを世代論としてリードしている。 建築作品の評価は難しい。実物があって、社会になんらかの影響を与えるものだから、写真や図面だけ見てもある一面の評価しかできない。それを建築家たちは言葉で補おうとする。いや、補うというネガティブな話ではなくて、建築には建築の言葉がある、ということだ。 この言葉は結構難しいから、市井では結局、見た目が奇抜かどうかとか、そんなことで建築が評価されてしまう。 建築は風景に溶け込むべし、と思っていたが、そうであっても、より雄弁でいいのだな、と感じた。ヨーロッパでは、建築は社会におけるオペレーティングシステムのように育てられてきた。建築によって自分と社会の関係を定義できる、という伝統。これが西洋建築の移入とともに日本に入り、丹下の理論が生まれた、というが、やはりまだ日本の建築は、OSの上で走っていないようにも思う。 つくづく、第五世代が登場しないのが大変残念だ。塚本由晴は、住宅建築が日本の卓越した建築を生み出したと言っている。だが、これも単純に個が優位にある、という話ではない。 ともかく、言葉は大事である。これが本書の訴えるところであろう。理論がわかっているかいないかで、消化吸収力はまるで違うのだ。日本の教育は(建築に限らず)、もっと理論を教えるべし。

Posted byブクログ