大不平等 の商品レビュー
クズネッツ仮説というものがある。所得水準と所得格差の関係を示したもので、所得格差、すなわち、不平等は、所得が十分に高まったあとは縮小に向かい、低い水準に留まるとしている。 縦軸に格差/不平等の程度(ジニ係数という数値で表されることが多い)、横軸に所得水準をとり、上記の考え方に沿っ...
クズネッツ仮説というものがある。所得水準と所得格差の関係を示したもので、所得格差、すなわち、不平等は、所得が十分に高まったあとは縮小に向かい、低い水準に留まるとしている。 縦軸に格差/不平等の程度(ジニ係数という数値で表されることが多い)、横軸に所得水準をとり、上記の考え方に沿ってグラフを描けば、逆U字型のカーブを描くことになる。これをクズネッツ曲線と呼ぶ。 このクズネッツ仮説は、おおむね1980年前後までは、先進各国の状況に、あてはまっていたが、それから以降の状況を説明できない。アメリカ、イギリス、スペイン、イタリア、日本、オランダといった先進国の統計を調べると、1980年前後までは、クズネッツ仮説は当てはまるが、それから以降は、所得水準が上がっているにも関わらず、所得格差も拡大しているのである。 クズネッツ曲線には、実は第二の波があるのではないかと、筆者は主張している。 以上が、先進各国「内」の話。 次に各国「間」の格差はどうなっているのかという話。 1960年から2013年の間の世界全体のジニ係数は、統計上、明らかに下がっている、すなわち、所得格差は、不平等は縮まっている。それは、この間の先進国の経済成長率よりも、新興国の経済成長率が高かったから。貧しい国の経済成長が、豊かな国の経済成長を上回ったから。 次に(本の中では一番最初に来る話であるが)、1988年から2008年までの間の、グローバルな、すなわち世界全体の経済成長の恩恵を最も受けたのは、どの層か?という話。 横軸に、世界の人々の所得分布を百分位でプロットする、0は最も貧しい人、100は最も豊かな人々。 縦軸には、1988年から2008年までの、その所得層の人たちの実質所得の増加率をとる。 それでグラフを作成すると、どの階層の人たちの所得が伸びたのかが分かる。 左から右肩上がりにゆっくりとカーブは上昇し、だいたい五十五分位くらいのところがピークとなり、その時の所得増加割合は、75%くらい。カーブはそこから急激に下がっていき、ボトムは八十分位くらいのところで、この層の所得の伸びは、ほぼゼロ。ボトムからカーブは更に急激に上がっていき、百分位が次のピークで、所得増加率は65%くらい。 この間の経済成長により、最も所得を増やしたのは、世界的に見ればちょうど中位の所得の人たち、それは新興国、例えば中国の人たちだ、 全く所得が伸びなかったのは、比較的裕福な人たち、先進国、例えば日本などの低所得の人たち。 これが、グローバル、世界全体の話。 これらは、経済のグローバル化と先進国の政治政策の、一つの不可避な帰結。 ■ここまでグローバル、マクロ的な、スケールの大きな統計的分析は、見たことがない。単純に知的に面白い。 ■言えば、マクロ経済の話だけれども、各国の政策は、経済成長や所得格差などに大きな影響を持つ。経済は、政治からインディペンデントには存在し得ないということが、よく分かる。 ■日本国内の格差について、話題になることが多くなっている印象がある。でも、ここまで、グローバルな分析をしないと、事の本質は明らかにならない気がする。 と、色々なことを感じた。
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グローバリゼーションに伴う階層別の所得変化を示す「エレファントカーブ」というFactを基に、階層間・国間・国内の格差・不平等の真実を解き明かす本。「これまでどうだったか」だけでなく、「これからどうなるのか」についても指針が示されています。 続きはこちら↓ https://flyi...
グローバリゼーションに伴う階層別の所得変化を示す「エレファントカーブ」というFactを基に、階層間・国間・国内の格差・不平等の真実を解き明かす本。「これまでどうだったか」だけでなく、「これからどうなるのか」についても指針が示されています。 続きはこちら↓ https://flying-bookjunkie.blogspot.com/2019/10/blog-post_26.html Amazon↓ https://amzn.to/2WeCCl4
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経済学の本なのだが、最終章では政治や社会の問題にも踏み込んでいる。移民、金権選挙、パワーカップル、虚偽意識…
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グローバル化によって世界的な不平等は縮小して来たが、国内の不平等は拡大している。 日本はまだ再分配が機能しているが、労働分配率の改善が必要だと思う。 世界的な不平等の動向が明確に示され、問題提起としてはいい本だ。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
難しくて、よく理解できなかった。 Amazonのレヴューで、投稿者θさんのレヴューを読んで、ああ、そういうことだったの?と、ボンヤリ分かった気がした。 以下、投稿者θさんのレヴューを引用させてもらいます この話を理解するのに役立つ。 ------------------------------------------ グローバルな不平等の変化を決める力 投稿者θ ベスト500レビュアー 2017年9月4日 邦題の「大不平等」は安直な感じがするが、内容は本書の原題「グローバル不平等 グローバリゼーションの時代への新しいアプローチ」の方が適切である。 副題のエレファントカーブの話も(背景にはあるにせよ直接には)最初以外全く出てこない。 本書は、多数のデータ・グラフを眺めつつ、グローバリゼーションで生じている変化を「国内の不平等」「国家間の不平等」それぞれから考えていく本である。 (ちなみに、見た限りデータを表すグラフの縦横軸はちゃんと数字や単位は入っている) エレファントカーブは、グローバル中間層(中国やアジア地域の上位層)の台頭、先進国の中間以下の層の停滞、超富裕層の上昇の三つを特徴として持っている。 最初の二つの動きは、労働市場をアジアへと移したりしたことによるものが大きく、エレファントカーブの構造はグローバル金融危機などの影響はほとんど受けていない。 国内不平等については、まずクズネッツ曲線とピケティの恒常的な不平等増大の説が紹介され、前者は1980年以降の動きを、後者は19世紀以前の動きを説明できないと批判する。 これに対し筆者は、(平均所得が動かないまま不平等が振動だけしている状況を脱した産業革命以降につて)クズネッツ仮説を拡張して、一人当たりGDPに対して不平等が上下に振動する「クズネッツ波形」というものを提唱する。 産業革命以前は生産余剰が少なく財が生存線ギリギリなので不平等はある程度以上広がれず、不平等の変動はペストや戦争といった外生的要因が主だった。 産業革命で一旦不平等が広がるが、第一次大戦から70年代ごろまで不平等が押し下げられる「第一の波」がある。 筆者はピケティとは異なり、波の低下要因の戦争は「富裕層の余剰貯蓄の投資先として植民地確保と他国の実力排除」であり、すなわち経済(不平等)の内生的要因と見ている。これに教育や医療の普及が連なる。 一方、情報革命とグローバリゼーション以降、金融・サービス部門への需要以降、高スキル労働者の報酬増、資本収益率の増加などによるレントの発生、それと政治に結び付いた富裕層優遇のロビー政治により「第二の波」が来ているとしている。 第二の波の不平等拡大の停止要因はいろいろと検討しているが、教育の拡充はほぼ天井に来ているので期待できないとし、中国での賃金上昇はアジアの他国次第(労働力供給国が中国からそれらの国に変わるだけなので)としている。 グローバルな不平等は、ほとんどが国家間のもの(国内の階級よりも「どの国に生まれるか」が所得の大半を決める)である。 世界全体での不平等は先進国に追いつく動きがみられるものの、それはアジアに限定されており、アフリカなどは脱落したまま(正確には急激なGDP下落を何度も経験している)である。 この豊かな国の「市民権プレミアム」を求めて人が動くのが移民であるが、移民は多くの国で受け入れられない。 過酷な労働環境に置かれたり差別されたりする事例は多いが、それでも国家間不平等の方が大きい状況では貧困国から先進国への移民は後を絶たず、筆者は妥協的な方法として「移民の市民権を一部制限する代わりに、移民を今よりも広範に受け入れる」方策を提案している。 最後は、アメリカの中間層没落や資本の集中、中国の状況(筆者は現在を不平等のほぼピークと見る)、そして今後のグローバル不平等を見る視点が解説されて締めくくられている。 全体として本書は、グローバルな不平等の変化と要因を考えるうえで、役に立つ情報と視座が盛り込まれている良書だと言えよう。 なお、本書はグローバル中間層以上を扱っているので、最底辺の国の問題はほとんど扱われていない。こうした問題はディートン大脱出――健康、お金、格差の起原やコリアー最底辺の10億人を読むといいだろう。 逆に超富裕層の考察については、本書では批判的に言及されることも多かったが、やはりピケティ21世紀の資本は外せないだろう。 本書は、両者の間である中流国富裕層~先進国中間層の動向をロングスパンで考察しており、グローバルな不平等を考える上で極めて示唆的な一冊だと思う。
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