南方熊楠 の商品レビュー
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
南方熊楠の話なら粘菌まみれかと思いきや、ひとつもそんな話がなく、同姓同名の偉人がいたか、自分の記憶が間違っていたのかと思ってしまったほど。 実際のところ、熊楠先生は粘菌だけではなく、むしろ民俗学や妖怪、食用の山菜や七草粥、コウモリによる受粉などめちゃめちゃありとあらゆることを学んでいて詳しい。 18歳の頃からいろいろな事を考え、文章を残していたようで、60歳くらいまでの文、でも粘菌以外の話が厳選されて収録されている。 結構昔の文章で読むのが難しいところもあるが、100年前の文章が既に現代とだいぶ違うという面白さもある。 18歳のときの江ノ島旅行記もあり、その頃の江ノ島は海岸にウミウシがいたり生き物だらけだったり、その頃でももちろん大仏様はあったりと、今と同じところもあるが全然違ったという当たり前のことを気づけて面白い。 子安貝、燕石についての文章もあり、一見なんのことかわからないが、絵を見るとこれは化石でよく見る唇みたいな形の貝の化石だった。昔は化石というものが理解されていなかったので、燕が石になったとかそういうこととして珍重されていたとか。 人柱の話を日本だけでなく海外からも収集していたり。 海外の学者に英語の論文応酬で勝っていたりと、行動力知識力だけでなく英語力も凄まじかったんだなぁ。
Posted by
とんでもない知識量に唖然としました。 「知の巨人」、生ける百科事典です。 古今東西を問わず、あらゆることに精通した熊楠の連想力は、驚きと衝撃の連続でした。 ところどころ窺える人間性には、若干、付き合い難い気質を感じますが・・・(寝ている友人の顔に男根の落書きって!そりゃあ寝ている...
とんでもない知識量に唖然としました。 「知の巨人」、生ける百科事典です。 古今東西を問わず、あらゆることに精通した熊楠の連想力は、驚きと衝撃の連続でした。 ところどころ窺える人間性には、若干、付き合い難い気質を感じますが・・・(寝ている友人の顔に男根の落書きって!そりゃあ寝ている間に抜け出た魂が顔を見誤って戻れなくなったらどうしてくれるんだ、という尤もらしい説教をしたくもなるような・・・) 蟻の気持ちになって巨人の足に踏みつぶされる、そんな読書体験でした。
Posted by
名前くらいしか知らなくて、お試し的に古本で手にした1冊。多才とはいえ本業は粘菌の人かと思ってたけど、この本は民俗学みたいなお話がまとまってた。博識でちょくちょく下ネタに流れてたまに理系っぽい観察眼もあって。昔だったら古い文章読めんかった気がするけど、そこらへんは百閒先生のおかげか...
名前くらいしか知らなくて、お試し的に古本で手にした1冊。多才とはいえ本業は粘菌の人かと思ってたけど、この本は民俗学みたいなお話がまとまってた。博識でちょくちょく下ネタに流れてたまに理系っぽい観察眼もあって。昔だったら古い文章読めんかった気がするけど、そこらへんは百閒先生のおかげかな。
Posted by
南方熊楠(1867-1941)は、奇才というにふさわしい、型破りの民俗学者・博物学者である。和歌山に生まれた彼は、少年時代から類い稀な記憶力を見せる博覧強記の人であったが、学業成績は必ずしもよくなかった。長じて東京大学予備門に進むが落第して退学。後、アメリカやロンドンに留学する。...
南方熊楠(1867-1941)は、奇才というにふさわしい、型破りの民俗学者・博物学者である。和歌山に生まれた彼は、少年時代から類い稀な記憶力を見せる博覧強記の人であったが、学業成績は必ずしもよくなかった。長じて東京大学予備門に進むが落第して退学。後、アメリカやロンドンに留学する。大英博物館での研究生活や科学誌Natureへの50を超える論文掲載などで、国内外で大学者として知られるが、終生在野の人であった。 その興味は広く、博物学、民俗学、人類学、植物学、生態学など、多岐の学問体系にまたがる壮大なものであった。往々にして曼荼羅に例えられる、知のラビリンスである。 本書では、熊楠が書き残した論考の中から、25を収録している。 いずれもさほど長くはないが、さらさらとは読み飛ばせない骨太さがある。 何しろ多言語の膨大な文献を読み漁ったと言われる熊楠である。 「草花伝説」と題される論考では、まず紅花に触れる。その来歴について、アラビア、エジプト、中国、日本、スペインと飛ぶ。薊に関しては「創世記」から始まる。中国、日本、スコットランドとめぐる。ノゲシ、雛菊、牛蒡、オオバコ、ウツボグサ。 思い出すままに書き連ねられたような、前のめりの濃い文章である。まるであれもこれも頭に浮かんできて、思考に筆が追い付かないかのような濃密さ。 文献的知識にとどまらず、食用植物の項では自分も食べてみた等の体感的な記録もあるのがおもしろいところである。 「人柱の話」では、土木工事の安全のために捧げられる人に関する伝説に触れる。古来、こうした犠牲は数多い。難工事の際、人を礎に埋めたり壁に埋め込んだりすると、ことが成就するというのは理不尽といえば理不尽だが、よく行われてきたことである。日本や中国、スコットランド、ドイツと類話は数多いが、セルヴィアの故事も紹介されている。王族の妃3人のうち、謀略によって1人が人柱とされ、壁に塗り込められる。だが彼女は幼い我が子のため、死してなお、壁の穴から乳を出し続ける。ユルスナールの『東方綺譚』にも引かれている話だが、ユルスナールの抒情に比して、熊楠は素にして簡。だがそこがまたおもしろい。 山婆の髪の毛。桃栗三年とは本当か。蝙蝠や鳥類の花粉媒介。鹿と緬羊。河童。狸の金玉。水の神とされる田螺。塩に関する迷信。針売り。人魚。燕の子安貝。 古今東西、森羅万象、縦横無尽。 その論考はなまじな才では読み込めなそうだが、目くるめく曼荼羅の文章の森に遊ぶとき、入るたびに違う景色に、人は目を見張るかもしれない。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
『南方熊楠 人魚の話』平凡社、2017年 南方熊楠の学問がよくまとまっている良い本である。短い随筆や論文を集めたもの。とくに後半の「人魚の話」、「人柱」の民俗、幽体離脱や人魂をあつかったもの、そして、英文論考「燕石考」が面白かった。南方さんの書物はときに猥談に流れるので、なかなか講読で使いにくいなと思ったりする。「履歴書」なんてすごくおもしろいんだけど。 明代の博物学や来華イエズス会士の著作をよむときにも参考になる。「睡眠中に霊魂ぬけ出づとの迷信」は『荘子』の解釈にもつかえるかもね。だれかやっているんかしら?「燕石考」には方以智の『通雅』も引かれている。南方邸の蔵書目録には『物理小識』もあったと思う。 大正時代のグローバル・ジャパニーズ、南方熊楠は「天才」とか「日本人の可能性の究極」とかいわれるようだが、中国の類書をのぞいたことがあれば、「あー、熊楠も漢学者だな」と思うのではないだろうか。学問のやり方が、まるで中国の博物学や考証学である。論文は多少、考証学より理がすっきりしているが、随筆などは方以智みたいである。 それから、南方熊楠さんと牧野富太郎って、なんか接点があってもよさそうじゃなかなと思ったが、ないんだろうか。だれか調べてないかな?
Posted by
さすがに、文章が古文に近いので、読みにくい。 それでも、読み進めていくと、独特の世界観に浸ってしまう。 それにしても、興味の向く先の広さ、深さ、そして文献引用の多様さには、参ってしまう。 くせのある文章といい、一種の変人ではあるのだろうな。 民俗学系方が長大な文章が収録されている...
さすがに、文章が古文に近いので、読みにくい。 それでも、読み進めていくと、独特の世界観に浸ってしまう。 それにしても、興味の向く先の広さ、深さ、そして文献引用の多様さには、参ってしまう。 くせのある文章といい、一種の変人ではあるのだろうな。 民俗学系方が長大な文章が収録されているせいもあって、理系分野の話が薄れてしまった。
Posted by
- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
やっと読み終わった…。読みやすくてすごく面白い章と、すんごく読みづらい章とあって、全部読むのは若干苦行…。 しかし、熊楠さんが実に面白い人だということは分かりました。この人、明治時代のゲッチョ先生だ…!桃栗三年柿八年をみずから実験するとか、もう…。
Posted by
知の巨人といえば熊楠(かボルヘス)。 先ず一読して皆が思うのは「尋常ではない」という事だと思う。膨大な知識量。人でありながら人智を超えた存在。 …でありながら、猫を愛し、折角買った貝類を旅館に忘れ、友人の顔に男根の落書きをしてみたりと何処までも人間臭い人柄。癇癪持ちで短気であるの...
知の巨人といえば熊楠(かボルヘス)。 先ず一読して皆が思うのは「尋常ではない」という事だと思う。膨大な知識量。人でありながら人智を超えた存在。 …でありながら、猫を愛し、折角買った貝類を旅館に忘れ、友人の顔に男根の落書きをしてみたりと何処までも人間臭い人柄。癇癪持ちで短気であるのを自覚していたそうな。 時代が時代なら神様として祀られそうな人物である。
Posted by
数多の論文を残しながら在野に留まった知の巨人、 博物学者・生物学者にして民俗学者、南方熊楠の膨大な原稿から、 一般人にも親しみやすい随筆を精選した小さなハードカバー本。 ユーモアたっぷりの筆致に、読んでいて頬が緩んでしまう。 郷里の山で見つけた粘菌の一種に砂糖をかけて「食べてみた...
数多の論文を残しながら在野に留まった知の巨人、 博物学者・生物学者にして民俗学者、南方熊楠の膨大な原稿から、 一般人にも親しみやすい随筆を精選した小さなハードカバー本。 ユーモアたっぷりの筆致に、読んでいて頬が緩んでしまう。 郷里の山で見つけた粘菌の一種に砂糖をかけて「食べてみた」とか、 江ノ島を逍遥して目についた魚介類をたくさん買って調べただとか、 偉大な研究の基本は、 好奇心を持って対象を観察し、直接触れることなのだな……と、 当たり前かもしれないが、改めて考えさせられた。 猫を溺愛したという本人の筆によるスケッチも愛らしくて心が和む。
Posted by
- 1