西洋の没落(Ⅰ) の商品レビュー
第一次世界大戦のもたらした物理的破壊と精神的荒廃は、現代文明への深刻な懐疑とヨーロッパの行く末に対する不安を呼び醒まし、多くのペシミスティックな書物を生んだ。ヴァレリーの『 精神の危機 (1919)』やオルテガの『 大衆の反逆 (1929)』などもその中に含まれるが、とりわけ広範...
第一次世界大戦のもたらした物理的破壊と精神的荒廃は、現代文明への深刻な懐疑とヨーロッパの行く末に対する不安を呼び醒まし、多くのペシミスティックな書物を生んだ。ヴァレリーの『 精神の危機 (1919)』やオルテガの『 大衆の反逆 (1929)』などもその中に含まれるが、とりわけ広範な読者を得て一大センセーションを巻き起こしたのが本書『西洋の没落(1918)』だ。シュペングラーは生物学とのアナロジーで歴史を捉えるが、あらゆる文化は青春、成長、成熟、衰退という段階を経て死滅するとし、古代→中世→近代といった単線的な発展を前提とする素朴な進歩史観を打ち砕く。 もっとも専門歴史学者からは酷評されたらしく、確かに独断と飛躍に満ちた破天荒な書物ではある。数学、音楽、美術、建築など諸学にまたがる博覧強記には圧倒されるし、詩人的直観で諸文化をバッサリと腑分けしていく手つきは鮮やかと言う他ないが、個々の分野に不案内の評者は議論の大筋に着いて行くのがやっとで、狐につままれたような気がしないでもない。だが随所に散りばめられた悪魔的な洞察は荒唐無稽とも言い切れない不思議な魅力を放っている。 最も興味深いのは著者自らゲーテに学んだと言うその方法論だ。「成ったもの」ではなく「成るもの」を捉えることが目指されるが、前者は因果法則が支配する死せる世界の空間的把握であり、後者は運命が司る生命現象の時間的直観である。生命としての歴史を流れゆく時間とともに把えるには、要素に還元して因果連関を分析的に説明するのではなく、直観によって一挙に全体を掴むことが要請される。それを可能にするのがゲーテが自然学の方法として提唱した形態学(モルフォロギー)である。生命の象徴として「形」を捉えようとするもので、そのために様々な文化事象の類型化が試みられる。それは19世紀に驚異的な発展を遂げた実証主義的科学が置き去りにした生きた自然への回帰を志向するベルクソンらの「生の哲学」と共通の精神史的背景を持っている。
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百年前に予見されたヨーロッパの凋落。世界史を形態学的に分析し諸文化を比較考察、西欧文化の没落を予言した不朽の大著の縮約版。〈解説〉板橋拓己
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