忘れられた花園(下) の商品レビュー
今まで出会った中で一番美しい本だった。 きらきらとした粒子のように溢れてくる言葉が、 脳内で麗しい躍動感を湛えた映画のようにうつり、 また光あふれる絵画のように映り込んでくる。 そこかしこに張り巡らされた布線を 一つ一つ丁寧に絡め取っていく心地よさはミステリーとしての読み応え...
今まで出会った中で一番美しい本だった。 きらきらとした粒子のように溢れてくる言葉が、 脳内で麗しい躍動感を湛えた映画のようにうつり、 また光あふれる絵画のように映り込んでくる。 そこかしこに張り巡らされた布線を 一つ一つ丁寧に絡め取っていく心地よさはミステリーとしての読み応え充分。 それに加え、登場人物の細やかな心理描写は読み手の心に切に訴えかける。読者を物語に引き摺り込み、活字の中で踊る人物たちと共に風を感じさせ、光悦とさせ、悩ませる。 それとなんと言っても、ただただ文字を追うだけで、作品の映像が脳に入り込み心臓が苦しくなる程の緻密で美しい情景描写。 目の前にある言葉を目で追うだけで、 こんなにも光のあたたかさを、闇の冷たさを直に感じることなんて出来たのか。 細やかな心理描写とテンポの良いストーリに夢中になりながら、胸が狂おしくなる表現が散りばめられ脳を刺す。 プレゼントしてくれた友人へ。 本当にありがとう。
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※このレビューにはネタバレを含みます
2005年、オーストラリア。祖母を看取ったカサンドラは、葬儀の席で大叔母たちから実は祖母のネルが養子だったことを知らされる。驚くカサンドラだったが、ネルはもうひとつ謎を遺していた。オーストラリアから遠く離れたイギリスのコーンウォールにコテージを所有していたのだ。「これをカサンドラに遺贈する。いずれその意図を理解してくれることを願って」と書き残したネルの足跡を追って、はるばるコーンウォールのトレゲンナという村にたどり着いたカサンドラは、かつて貴族の邸宅だったブラックハースト荘で貴族の令嬢と童話作家と画家が過ごした日々にネルの出生の秘密が隠されているのを知る。百年の時を行き来しながら、一人の女性のアイデンティティにまつわる謎を追った歴史エンターテイメント。 時空を超えたシスターフッド、そして祖母と孫を描いた作品。ネルがなぜ偏屈ばあさんになったのか、その絡まった糸をときほぐすうちに、カサンドラが抱える傷も少しずつ癒されていく。心地よい距離感を保ったシンクロニシティとも言うべきこの関係性は、親娘間では書きにくいことのような気がする。 物語は3パートに分かれている。一つ目がカサンドラのパート。軽いタッチのロードムービーふうで、少しおせっかいなキャラクターが次々登場し、後半にはラブロマンスもある。二つ目はネルのパート。船でのかくれんぼの記憶に始まり、人生が一変してしまった婚約パーティーのこと、謎解きの果てにトレゲンナにたどり着いたことが描かれる。三つ目はイライザのパート。サラ・ウォーターズの『荊の城』を思いだすようなイライザの身の上とローズとの友情。三つのパートを細切れに語って謎の解明を引き延ばすと同時に、同じ人物の時を経た姿が多角的に描かれる構成になっている。 一番の眼目はブラックハースト荘のパートだが、ミステリーを意識した(?)ミスリードが余計に感じてしまう。イライザが実母に決まってるんだから、もっとローズとイライザとナサニエルをめぐるドロドロに注視してゴシック気分を盛り上げてほしかった。友情で繋がるローズとイライザ、性愛で繋がるローズとナサニエル、創作で繋がるイライザとナサニエル…という掘り下げがあるものと思っていたので肩透かしを食らった。イライザがだんだん破天荒じゃなくなるのも寂しい(これは物語上必然性があるが)。アデリーンの徹底した悪役ぶりが一番好感度高い。 でも作中でイライザが書いたとされる童話が全部ちゃんと面白いのは偉い。元々は「Authoress」という題にするつもりだったというから、イライザの人生から妖精物語が生みだされるその飛躍こそがテーマだったのだろう。直接血筋と関係があるネルやカサンドラだけでなく、ジュリアがローズのスクラップ帳を、クララがナサニエルの原画を、クリスチャンがイライザの庭をそれぞれ大事に思っているところは、創作物と時間の経過とその需要のあり方をあたたかく描いていると思った。 最初に「時空を超えたシスターフッド」と書いたのは、ネルもイライザもローズも苦しみ傷ついて、秘密を抱えたまま亡くなったが、その気持ちを受け取る相手が未来にいたのだとわかる物語だからだ。過去に苦しんだ人びとへの共感が、いま前を向くためのパワーに還元されていくというポジティブなメッセージがあるからこそ、二人のキャラクターの死の場面で終わるにもかかわらず、読後感は明るい。
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イギリスから船でオーストラリアに渡り、一人置き去りにされた少女。いったい彼女は何者で、何が起きたのか。過去と現在を行きつ戻りつしながら、過酷な運命に翻弄される一族の秘密が解き明かされていく。 時代を大きくさかのぼりつつ語り手が何度も変わるため、人物関係を頭のなかで整理するのにひ...
イギリスから船でオーストラリアに渡り、一人置き去りにされた少女。いったい彼女は何者で、何が起きたのか。過去と現在を行きつ戻りつしながら、過酷な運命に翻弄される一族の秘密が解き明かされていく。 時代を大きくさかのぼりつつ語り手が何度も変わるため、人物関係を頭のなかで整理するのにひと苦労。それでも、ところどころ挿入される童話の真の意味を考えたり、少しずつ解き明かされていく悲しい過去によってそれぞれの人物像が浮かび上がっていく過程は、古典を読んでいるかのような心地よい読書となる。 たぶん、子どもの頃にオーソドックスな海外の物語を読んで、異国の主人公たちに憧れた空想好きの元少女たちに愛される作品なのでは。 古いイギリスのお屋敷を舞台とした上質なゴシックミステリーを堪能することができ、満足。
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ゴシックミステリーというジャンルらしい イメージより地味な読み心地ではなく サスペンスフルで 次々とページをめくってしまう。 途中で真相に気づいてしまったが それでも最後まで引っ張られる 解説によるとやや荒さもあるみたいだけど 綺麗にまとまって面白かった。 他の本のあらすじを...
ゴシックミステリーというジャンルらしい イメージより地味な読み心地ではなく サスペンスフルで 次々とページをめくってしまう。 途中で真相に気づいてしまったが それでも最後まで引っ張られる 解説によるとやや荒さもあるみたいだけど 綺麗にまとまって面白かった。 他の本のあらすじをよんでみると こういう感じの話が多い作家さんなのかも 映像化したら見てみたい。
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何人かのおばあちゃん、孫がでてくる。いつもなら、誰が誰やらこんがらがってくるんだが、ちゃんと書き分けられているのか、混乱がなく、最後まで一気に読めた。
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いやあ、楽しい読書でした。 子どものころ読んだイギリスのお話みたいな部分と、ハーレクインみたいな部分。 「秘密の花園」の作者、バーネット夫人もちゃんと出てきます。 推理小説として考えると物足りない。 ネルの正体は、割と簡単に想像がつきます。 けれどイライザの悲しいまでに切ない...
いやあ、楽しい読書でした。 子どものころ読んだイギリスのお話みたいな部分と、ハーレクインみたいな部分。 「秘密の花園」の作者、バーネット夫人もちゃんと出てきます。 推理小説として考えると物足りない。 ネルの正体は、割と簡単に想像がつきます。 けれどイライザの悲しいまでに切ないローズへの友情。或いは愛情。 本当の自分を知りたいというネルの強い欲求。 過去の後悔から自分を解き放つことのできないカサンドラ。 この3人の人生が年代を超えて複雑に織りなしていく物語なのですが、この巻ではもっぱらイライザの人生について。 自分の力で生きてきた少女時代のイライザが、母の実家であるマウントラチェット家に引き取られ、本来の自分とローズとの友情にすがる自分との間で引き裂かれていく様子が、哀しいくらいの説得力を持って迫ってくる。 貴族のお嬢様というのは、家の奥深くに隠されて、世間を知ることなく、家族と使用人しかいない世界で育つのだね。 だからとても世界が狭い。 ローズの母であるアデリーンの、どこまでも満たされない欲求が、どんどん不幸を拡散していく。 誰もそれを止めることができない。 だって、狭い世界しか知らないから。 その圧倒的な負の情念を誰も知らないから。 “「人生は自分が手に入れたもので築き上げるものよ。手に入れ損なったもので測っちゃ駄目」” アデリーンの不幸は、手に入れた貴族の生活という幸せではなく、手に入れられなかった妻としての幸せ、そして決して泥を塗ってはいけない世間からの評価で自分の人生を測ってしまったことだ。 ローズの不幸は、そんな母から知らず知らずのうちに植えつけられていた、貴族意識。 本来は手に入れることのできないものを、どうしても欲しいという気持ちを我慢することができなかった。 我慢の必要を教えられることなく育ったローズは、自分の要求が、自分の大切な人たちと、そして自分自身をも不幸にしてしまうと最後まで理解できなかった。 誰も教えてくれなかった。 それに比べたら、一見不幸の連続のイライザは、自分の才能を知り、報われずに終わったとはいえ彼女のほうからは決して失うことのなかった友情を知り、本当に愛するべきもの、大切なものを知ったことで、前向きに人生を終えることができたのではないだろうか。 ネルは、両親が実の親ではなかったことを知って、自分の人生を半分捨ててしまったが、意に反してカサンドラと暮らすことによって、自分が本来持っていた自分自身を取り戻すことが少しはできたのではないかと思う。 そしてカサンドラ。 失ったものにとらわれていた彼女は、これからはきっと手に入れたもので人生を測ることになるだろう。 そんな女たちの大河小説。 小さな疑問というか、突っ込みどころはあるけれど、大きな流れに任せてしまえばなんともいえない物語の魅力に包まれてしまうのだ。 そんな小さな突っ込みどころの一つ。 最後まで精神的な大人になることがなかったナサニエル。 もう気持ち悪いの。 自分とジョージアナしか世界にいなくて、時間が止まっていて、生きているのに世の中に何一つ貢献できない男。 この悲劇のそもそものきっかけを作った…わけではないけど、まあ拡大した男、ナサニエル。 彼の不気味さは、これ以上の悲劇を引き起こす予感があったのですが…うーむ。 上巻の時も思いましたが、訳者あとがきがめっちゃ長い。(笑) 今回も長いですわよ。 読み終わって本を閉じて思ったこと。 あ~、面白かった。
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良質ゴシックミステリー。ロマンス小説の香りもするが、入れ子構造で語られる各時代の女主人公たち、それぞれの決意と強さには励まされる。『レベッカ』『リオノーラの肖像』を思い出す。
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後半に入ってからの「花園」の象徴的存在感、イライザとローズの歪んだ友情、過去を辿る者と真実との微妙なずれ、謎の解きほぐされ方の物語としてのバランスが絶妙すぎる。 正直、結末は予想できたが、そこに至るまでの語りにのめり込んでしまい一気読み。 個人的には「半身」のキーワードが懐かしさと切なさを生み印象的だった。解説にも触れられていなかったと思うのだが、オマージュ的要素はあるような気がするのだが。
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下巻は続きが気になり、一気に読破! カサンドラもネルも大好きになった。そして、イライザは切なくなった。 3人に共通するのは、自分の居場所をそれぞれが必死になって見つけようとしていたところ。自分が何者なのか、ないもの、もしくは失くしてしまったものを必死で追い求めて、本当に大切な...
下巻は続きが気になり、一気に読破! カサンドラもネルも大好きになった。そして、イライザは切なくなった。 3人に共通するのは、自分の居場所をそれぞれが必死になって見つけようとしていたところ。自分が何者なのか、ないもの、もしくは失くしてしまったものを必死で追い求めて、本当に大切なものをちょっぴり見失ってしまう。 私は、人間にとって大切なもののひとつに「自分の居場所を見つけること」があると思っているので、この物語は本当に面白かった。 この本のタイトルの意味も下巻まで読むとわかります。
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一番の謎は予想通りでしたが、面白かったです。 過去の人物視点で語られる事は、現在の人物は自分で調べないと知りえない事で、それも、詳細まではわからない、という構成も面白いです。 それから、作中にバーネットが登場するのですが、彼女がブラックハースト荘のガーデンパーティに招かれるのが1907年。『秘密の花園』の初版発行が1911年。成程、そういう仕掛けかぁ、と。 本編にはあまり関係がないのですが、読んでいて疑問に思った事が、訳者あとがきですべてツッコまれていたので、「あ、何だ、そう思ったのは私だけじゃなかったんだ!」と、少し面白かったです。 『秘密の花園』と『茨の城』がお好きな方にはおすすめです。
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