彼女と人妻とオートバイ の商品レビュー
過去の清算とけじめの旅路
北の大地を舞台にしたロードムービーチックなバイク小説としては2012年に『美熟女ツーリング』(廣済堂文庫)があり、自動車の旅だと2014年に『蜜情ひとり旅』(竹書房文庫)がある作者だが、今回もまたほろ苦い過去を清算し、心を浄化し、想い人との関係を進展させる主人公のけじめと再出発の...
北の大地を舞台にしたロードムービーチックなバイク小説としては2012年に『美熟女ツーリング』(廣済堂文庫)があり、自動車の旅だと2014年に『蜜情ひとり旅』(竹書房文庫)がある作者だが、今回もまたほろ苦い過去を清算し、心を浄化し、想い人との関係を進展させる主人公のけじめと再出発の旅が描かれている。敢えて違いを見つければ、今回は始まりから終わりまで北海道内で完結していることか。主人公もヒロインも北の住人である。 客商売で感じた負い目を詫びにかつての客の元を巡るという旅の動機は正直なところ弱い。何もそこまで、という印象ではあるのだが、事務的かつ機械的にこなしていく(特に大手の)仕事のやり方に対するシニカルな目線とは言えるであろう。とにかく25歳と思しき主人公は、かつての自分を省みて、かつての自分を清算するため、旅に出る。 こういったストーリーの場合、その多くでは旅先で将来を約束するヒロインと出会ったり再会したりするものだが、本作では出発前に現れている。アパートの隣人である。気の置けない間柄にはなっているのだが、友達感覚にもなっているため、あるいは相手の気持ちが掴み切れていない鈍感もあって一線を越えるには至っていない。この1歳年下の隣人が主人公の旅の行く末を心配しつつ健気に送り出してくれるのだが、最後でさらに健気な一面を見せてくれる。勝気で行動力のある女性像を活かした結末にして実に可愛げのあるヒロインが描かれている。 また、旅路では3人のサブヒロインとの遭遇がある。どれも直接の客ではなく、その相方といった存在なのだが、そこには悩みがったり悲哀があったりと束の間のドラマがある。サブヒロイン達もまた主人公との刹那の交合を機に再出発していくのは定番展開ではあるが、30歳のナースや34歳の未亡人に21歳の女子大生といった面々は主人公より年上もいれば年下もいて、妖艶さがあれば可憐さもあるという、ほぼフルコース状態の布陣である。全体としては慎みがあって、つまりは物足りなさも若干残る官能描写ではあるのだが、それでも相手先の部屋に留まらないシチュエーションの工夫も見られる。 バイクについての蘊蓄を散りばめた1人旅の様子が意外に多く描かれており、旅先でのちょっとした人との出会いとその影響なども盛り込まれたストーリーは内省的である。自身を見つめ直した主人公がスカッと爽快に再出発を期すテイストではないだけに感情がじんわりと滲み出てくるような、それでも主人公の心持ちは確かに変化しているような、そんな雰囲気を醸す作品である。
DSK
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