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徳富蘇峰と大日本言論報国会 の商品レビュー

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2019/03/27

 戦時期に内閣情報局の所管下で言論・思想統制に協力した文化人団体「大日本言論報国会」と、その会長の徳富蘇峰の動向を総括した書。本来は対外宣伝・工作を主とする心理戦・情報戦の概念が、日本では「国内思想戦」に転化して専ら国内のあらゆる言論を規制・圧迫するツールとなった経緯、その「思想...

 戦時期に内閣情報局の所管下で言論・思想統制に協力した文化人団体「大日本言論報国会」と、その会長の徳富蘇峰の動向を総括した書。本来は対外宣伝・工作を主とする心理戦・情報戦の概念が、日本では「国内思想戦」に転化して専ら国内のあらゆる言論を規制・圧迫するツールとなった経緯、その「思想戦」論が精神主義的、時局便乗的で荒唐無稽な陰謀論を下地にしていたことがわかる。他方、報国会と政府・軍との距離は一定ではなく、蜜月関係だった東条英機内閣倒壊後は政府も持て余すようになり、戦局の悪化が進むと結果として報国会が国策批判の場になるという転倒が発生していた事実も明らかにしている。戦争末期において、明治憲法第31条の非常大権に依拠した事実上のクーデター計画に参画していたという目新しい指摘は興味深い。  なお当時の「思想戦」論は現在の日本で跋扈する反知性主義や歴史修正主義の言説とほぼ同水準であり、ジャーナリズムの自己規制や国家権力への忖度の横行などを考慮すると、「言論報国会」の歴史は依然として過去の問題ではない。どの新聞社・出版社・放送局にも存在する御用記者・編集者らが(首相官邸の不可視的助力を得て)音頭を取って、例えば「記者クラブ」制度を拡大するなどして、「愛国」を梃子とした類似の組織化が行われる危険は決して杞憂ではないだろう。

Posted byブクログ