五月の雪 の商品レビュー
スターリンの強制労働収容所の囚人たちの玄関口であった オホーツク海北部の町マガダンを故郷に持つ人々、マガダンを離れてもっと幸せな生活を得たいという願いと、離れた後の現実の生活との隔たりに悩みながら生きて行く九つの物語。 「クルチナ」では、フェアバンクスに嫁いだ娘スヴェータの許を訪...
スターリンの強制労働収容所の囚人たちの玄関口であった オホーツク海北部の町マガダンを故郷に持つ人々、マガダンを離れてもっと幸せな生活を得たいという願いと、離れた後の現実の生活との隔たりに悩みながら生きて行く九つの物語。 「クルチナ」では、フェアバンクスに嫁いだ娘スヴェータの許を訪れたマーシャが娘の演じる可愛い妻の役割を不憫に思いグリーンカード取得を祝うパーティーで孫娘のカーチャとクルチナを歌う。 「クルチナというのは「悲しみ」を表す古語だが、日常の悩みにありがちな、いわば普通の悲哀や落胆を意味するのではなく、むしろ実存的なとでも言おうか、 女の運命として消えることのない悲しみだ。たとえ幸福の絶頂にあっても、クルチナが去ることはない。」この言葉が「五月の雪」の物語の背景曲として流れているように感じられた。
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二編目の冒頭でロシア時代の親友が20年ぶり位に電話してきて、その人とわかっていて出ない。 わかりすぎる。 この本が私にとってそうなんだ。 雪深い場所で生まれ、人々は生活にいっぱいいっぱいで余裕がなく、自分を好きになれはしないし他人に優しくなんかできない。ほっこりなんて言葉...
二編目の冒頭でロシア時代の親友が20年ぶり位に電話してきて、その人とわかっていて出ない。 わかりすぎる。 この本が私にとってそうなんだ。 雪深い場所で生まれ、人々は生活にいっぱいいっぱいで余裕がなく、自分を好きになれはしないし他人に優しくなんかできない。ほっこりなんて言葉は存在しない。わかりすぎる。 そしてもう蓋を開けたくないんだ。 四編め、些細なことでもう全て終わりにしたい、でもやっぱり、と思い返す。あかべこのように連打でうなずく。 そういう雰囲気じゃない明るいユーモアある作品は楽しく読めた。
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表紙と装丁に一目惚れして買ったクセニヤ・メルニク『五月の雪』読了。かつて多くの強制収容所が置かれたシベリアの町マガダン。その役割を終えた後も人々は残り住み、家族という絆を連綿と紡いだ。時に一員が去り、時に死に、時に入れ替わりが生じてもー。戦後からソ連崩壊前後までを描いたゆるい連作...
表紙と装丁に一目惚れして買ったクセニヤ・メルニク『五月の雪』読了。かつて多くの強制収容所が置かれたシベリアの町マガダン。その役割を終えた後も人々は残り住み、家族という絆を連綿と紡いだ。時に一員が去り、時に死に、時に入れ替わりが生じてもー。戦後からソ連崩壊前後までを描いたゆるい連作短編集。 一編一編は正直に言うと、かなり苦手だった。日常に不満を感じているのに、少しでも夢想しようものなら現実に引き摺り戻される登場人物が居た堪れない、と思いきや、彼ら自身も(全員ではないが)結局デモデモダッテで何も行動を起こそうとしない。 何も起きないロシアの町の喜怒哀楽を描いている、と言えば聞こえはいいけど、とにかくそれが苦しくて仕方がなかった。せめて一度は選択して欲しかった。足掻いて欲しかった。結局作者が皿に乗せた「これぞロシア」を口にできる訳でもなく、ボーッと傍観させられているような。各キャラの心の中の結晶が欠けたり、組み替えられたり、細かな変化はしているのは分かったけれども、全く感情移入ができなかった。 ただ、最後に各編が緩く繋がっている事に気付くと、印象はガラリと変わる。描かれているのは個人の話のように思えて、壮大な一家の歴史だった。点と点が繋がり、曖昧ながらも美しい像を描く。その中でもがく祖母が、母が、子が、愛しく思える、そんな不思議な一冊だった。 「イタリアの恋愛、バナナの行列」ーまだ西欧の物が手に入り辛かった時代。イタリアのサッカー選手に口説かれた私は、恋と家族を天秤にかけー。「皮下の骨折」ー順風満帆なアメリカでの生活を得た私と、全く同じ町で生まれ育ちながらも、不遇に見舞われてしまう友人と。「魔女」ー偏頭痛に悩まされる少女は魔女の下へと向かう。「イチゴ色の口紅」ー早く結婚してイチゴ色の口紅を気兼ねなくつけたかった私はー。「絶対つかまらない復讐団」ー少年はマガダンの復讐団結成に思いを馳せる。気が散ってしまう、こんな簡単な行進曲も弾けないなんて。「ルンバ」数十年に一度の逸材を見つけたダンスコーチは少女にだけ甘い。終いにはー。「夏の医学」ーどうしても医者になりたかった少女は仮病を使い祖母の病院に入院するもー。「クルチナ」ーアメリカ人の男の下に嫁いだ娘が気がかりで、ついには渡米したおばあちゃん。「上階の住人」ーマガダンが誇るかつての大歌手の人生。
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ソ連時代~崩壊ロシア~アメリカと歴史の流れの中で生き、移り住んだ家族の連作短編集。 同じ名前の人が多いなあ~と思って読んでいましたが、同じ家族だと解説を読んで気づきました。 “皮下の骨折”、“いちご色の口紅”が長い労苦を感じられて好み。それでいて辛さを控えめにできているのは、...
ソ連時代~崩壊ロシア~アメリカと歴史の流れの中で生き、移り住んだ家族の連作短編集。 同じ名前の人が多いなあ~と思って読んでいましたが、同じ家族だと解説を読んで気づきました。 “皮下の骨折”、“いちご色の口紅”が長い労苦を感じられて好み。それでいて辛さを控えめにできているのは、今から振り返っての過去の語りだからでしょうか。 本当にロシアは酷寒で広大でウォッカだなあ。
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見知らぬロシアの極東の過去から現在を あっちこっちと進む物語 みんな過去をもっているから、時間は複雑に絡みあう。 そしてとても魅力的なサブタイトルたちなの。 イタリアの恋愛、バナナの行列 皮下の骨折 魔女 イチゴ色の口紅 絶対つかまらない復讐団 ルンバ … 最後まで読んで、訳...
見知らぬロシアの極東の過去から現在を あっちこっちと進む物語 みんな過去をもっているから、時間は複雑に絡みあう。 そしてとても魅力的なサブタイトルたちなの。 イタリアの恋愛、バナナの行列 皮下の骨折 魔女 イチゴ色の口紅 絶対つかまらない復讐団 ルンバ … 最後まで読んで、訳者あとがきを読んで、 そうかつながってるの?ってもう一度読み直したくなる。
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かつてシベリア強制収容所が置かれたロシア極東の町マガダン。 古くは1958年から、最近では2012年まで、長くこの町に暮らした家族と、流れ着いた人たちの人生が交わる九つの短編。 ジュンパ・ラヒリの『停電の夜に』にインスパイアされたそう。未読なので読まねばだ。
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時系列はバラバラだが、全編で織りなされる一家の数世代の歴史。 「イチゴ色の口紅」が私は一番気に入ったのだけれど、これが最も古い時代になるのかな。 生まれた土地を離れて、別の土地へ行き、そこで居場所を見つけそこの言葉を身につけて暮らしていく…そこには悲喜劇がついて回る。 まあ誰に...
時系列はバラバラだが、全編で織りなされる一家の数世代の歴史。 「イチゴ色の口紅」が私は一番気に入ったのだけれど、これが最も古い時代になるのかな。 生まれた土地を離れて、別の土地へ行き、そこで居場所を見つけそこの言葉を身につけて暮らしていく…そこには悲喜劇がついて回る。 まあ誰にとっても、生きていくとはそういうことでもあるけれど。苦しい境遇の中にも、なんだかうっすらとユーモアもあり、じんわりと沁みてくるものもあり。 ちょっとラヒリに似た雰囲気を感じながら読んだのだが、やはりご本人「ラヒリの物語に恋して」とのこと。
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小川高義さんが訳したあたらしいロシア系米国作家の物語、読まないわけにはいかない。 ロシアの、その名を聞く人が聞けば「ああ…」と思い当たるいわくのある小さな町。そこに暮らし、かつて暮らしていた人たちの物語の連作集である。 一篇、二篇、と読み進めていくにつれ、さっき読んだ物語の登場人...
小川高義さんが訳したあたらしいロシア系米国作家の物語、読まないわけにはいかない。 ロシアの、その名を聞く人が聞けば「ああ…」と思い当たるいわくのある小さな町。そこに暮らし、かつて暮らしていた人たちの物語の連作集である。 一篇、二篇、と読み進めていくにつれ、さっき読んだ物語の登場人物が顔を出す。さっきはさらりと出ていたその人の若いときであったり、すっかり年を取ったときであったり。そうして幾人もの人々それぞれに物語があったのだと気づく。 著者はラヒリの作品に出逢い、「カレーとボルシチという違いはあっても」深く共鳴し、本作を書きはじめたという。なるほどと思わせる味わい。 まだ若い作家だが10年をかけて本作を完成したという。これからどんな作品を生み出していくのか、楽しみにしたい。
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