自治体経営リスクと政策再生 の商品レビュー
人口減少・少子高齢化・グローバル化・情報化などの社会経済環境の変化により、自治体経営は大きな変化を迫られています。自治体を取り巻く経営環境が悪化するとともに、財政難や職員数の減少に伴い、自治体経営の現場は疲弊の度合いを強め、これまで形成された自治体経営の手法は限界に陥っています。...
人口減少・少子高齢化・グローバル化・情報化などの社会経済環境の変化により、自治体経営は大きな変化を迫られています。自治体を取り巻く経営環境が悪化するとともに、財政難や職員数の減少に伴い、自治体経営の現場は疲弊の度合いを強め、これまで形成された自治体経営の手法は限界に陥っています。右肩上がり時代には見過ごされてきた債務やリスクが「自治体経営リスク」として顕在化しつつあります。 バブル経済崩壊以降、地方自治体でも様々な行政改革が行われてきましたが、メリハリの乏しい削減に焦点を当てた行政改革は縮小均衡を生み出し、地域経済の状況は反転しないまま現在を迎えており、人口減少を克服する地方創生の必要性が叫ばれています。 本書はこうした環境にある地方自治体が組織を改革し、政策・施策・事務事業の進化を実現するための自治体経営進化の視点や取組方法を凝縮して提示します。計画策定・行政評価などのPDCAサイクルの確立、計画の実効性を高めるマネジメント、組織間の連携効果を高める情報の管理・活用、公営事業の経営などを実践的な視点で解説しています。 そもそも経営とは、限られた資源を有効に活用することであり、自治体経営の目的は将来世代の住民の選択肢を奪うことなく、現在の住民のニーズを満たすこと、すなわち持続性を確保することです。そのためには、地方自治体の職員を中心に、徹底的に将来のあるべき自治体像を検討し、それに向けた課題を的確にとらえた政策立案を行うことが求められています。 本書では最新の自治体経営動向を踏まえ、計画策定から行政評価・見直しなどのPDCAサイクルの進化やマネジメントのあり方を富士通総研の佐々木央(第3章)が、組織間連携に必要なモニタリングや情報備蓄を踏まえた事務事業の進化を富士通総研の若生幸也(第5章)が整理しています。また公営企業経営の進化について公営企業のあり方を制度官庁の総務省の中で検討してきた東宣行氏(第4章)が整理しています。その全体を通底する自治体経営の進化とリスクや1980年代以降の歴史的な経緯も踏まえ学術的観点から宮脇淳先生(第1章・第2章)が整理しています。 佐々木が書いた内容は、自治体経営のPDCAサイクルを考えるためのノウハウの部分まで踏み込んでその視点や方法論を整理しています。私が書いた内容は、広域連携や官民連携を別個にとらえるのではなく、一連の流れの中で情報基盤も活用しながら検討する視点や方法論を示しています。東さんが書いた内容は公営企業経営の全体像を最新の動向も含め、留意すべき視点・方法論を余すことなく整理しています。宮脇先生が書いた内容は過去からの経緯も含め、自治体経営を考える上で基盤となる思考や視点を提供してくれます。これらが1冊にまとまった自治体経営の書籍は類書に例がないと自負しています。 地方自治体の職員はもちろんのこと、地方議員や官民連携に取り組む民間事業者、自治体経営を学ぶ学生・住民など自治体経営の進化に関心を寄せる読者にとって、ともに自治体経営を進化させる一助となることを期待しています。 ちなみに個人的には、第3章→第5章→第4章→第1章→第2章という読み方がオススメです。書籍を陳腐化させないためにも、統計などのデータや事例紹介は最低限にしつつ、自治体経営の本質部分を描き出す良い書籍になったと思います。
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