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人間の経済 の商品レビュー

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20件のお客様レビュー

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2023/11/04

 著者宇沢弘文が遺した、これまでの講演やインタビューを1冊にまとめた本。宇沢は「社会的共通資本」という概念を生み出したことで有名であるが、これは著者がシカゴ大学で教鞭を取った時代に関連する。当時のアメリカは、第2次世界大戦で勝利して以後、覇権国家として君臨した。経済活動においては...

 著者宇沢弘文が遺した、これまでの講演やインタビューを1冊にまとめた本。宇沢は「社会的共通資本」という概念を生み出したことで有名であるが、これは著者がシカゴ大学で教鞭を取った時代に関連する。当時のアメリカは、第2次世界大戦で勝利して以後、覇権国家として君臨した。経済活動においては、ハイエクやフリードマンといった新自由主義(ネオリベラリズム)が主流であった。これは、ケインズ経済学と異なり、政府の介入をできる限り最小限に抑えて、個人が自由に活動できる経済体制である。しかし、本書を読むと、ハイエクとフリードマンの思想は、厳密には違うことがわかる。ハイエクはたしかに自由を重視したが、人間の理性について懐疑的な立場であった。それに対してフリードマンは、なんでも市場に任せればうまくいく、全てはお金に代えられる、という市場原理主義を信奉した。ちなみに、フリードマンは、共産主義から自由を守るために、ベトナム戦争における水爆の使用に賛同したり、麻薬の取り締まりに反対するなど、筋金入りの市場原理主義者であった。このように、個人の自由を重視するがゆえに、フリードマンはミクロ的な思想を注視する一方で、マクロ的な視点は、論文や発言から確認できない。これらの思想をふまえて、宇沢は以下のように主張する。「リベラリズムとは、本来、人間が人間らしく生きて、魂の自立を守り、市民的な権利を十分に享受できるような世界を求めて学問的営為なり、社会的、政治的運動に携わるということを意味する」と。  また、本書の後半で、「社会的共通資本」の意義についても語るが、なかでも自然に対する畏敬がうかがえる。森ひいては自然環境を守ることは、人間の生存にとって不可欠であり、人間の経済、文化、社会活動において重要な役割を果たす、ということを強調する。それ以外にも、戦後日本社会の矛盾、とりわけ日本の都市化と地方の過疎化について指摘する。著者曰く、日本の場合、20〜25%程度の農村人口が必要だといい、大切なのは、各国が持つ歴史と文化を守り、次の世代の人たちのためにも、協力的な解決であるという。興味深いことに、著者は中国を訪ねて、総書記を勤めた趙紫陽から、著者の主張に共感した。本書は石橋湛山とケインズについても触れるが、石橋湛山はヒューマニズムを重視しており、人間が人間らしく生きるための経済を考えたと賞賛する。以上から、宇沢弘文がどれほど自然と人間との共生を重視したのかがわかる。

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2023/05/10

「社会的共通資本」の入門的な新書。 中でも数々の大学を行き来し、多くの学生を教えてこられたからこそであろうが、大学教育の章には力が入っているように感じられた。宇沢先生が逝去されて9年の月日が経つが、いまこそ必読の書だと思う。

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2022/08/06

ものすごく良かった。戦後の著名な経済学者が、市場主義経済を批判し、自然との共生、仏の心などを有してあるべき姿を語る。サステナビリティが重視されるようになった今だからこそ、目を通しておくべき本だと感じた。経済学者の立場から地球温暖化、生物多様性の保全にも尽力されており、主張がわかり...

ものすごく良かった。戦後の著名な経済学者が、市場主義経済を批判し、自然との共生、仏の心などを有してあるべき姿を語る。サステナビリティが重視されるようになった今だからこそ、目を通しておくべき本だと感じた。経済学者の立場から地球温暖化、生物多様性の保全にも尽力されており、主張がわかりやすい。

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2022/05/08

『人間の経済』 宇沢弘文 最近、仕事でESGに関連するサービスのプロモーターを担うことになったため、ESGについて調べているが、どうも懐かしい感覚になる。その感覚を突き詰めると、学生時代に読んだ宇沢弘文氏の『社会的共通資本』に行き着くことがわかり、改めて宇沢氏の著作をもっと読ん...

『人間の経済』 宇沢弘文 最近、仕事でESGに関連するサービスのプロモーターを担うことになったため、ESGについて調べているが、どうも懐かしい感覚になる。その感覚を突き詰めると、学生時代に読んだ宇沢弘文氏の『社会的共通資本』に行き着くことがわかり、改めて宇沢氏の著作をもっと読んでみようと思い、本書を手に取った。 本書は、エッセー的な側面も強く、宇沢氏の過去の仕事や思想的な遍歴を追体験するような本である。宇沢氏は、稀代の経済学者であるとともにヒューマニストであった。なんでも計算範囲に含めようとするイメージの強い経済学者の中でもトップを走る宇沢氏が行き着いた結論が「大切なものは決してお金に換えてはいけない(p51)」ということであることは非常に興味深い。環境資本や、制度資本等の人間がこれまで社会で守り続けてきた社会的共通資本というものは、決してお金という単一の軸で推し量ってはならない。この一説を読んで、今同時進行で読んでいる内田樹氏の『レヴィナスの時間論』を想起した。レヴィナスのまた、なんでも一望できる光を当てて、統一的に物事を説明しようとする西洋哲学へのアンチテーゼともいう形で、他者論を展開した人物であるからである。敬虔なユダヤ教徒であるレヴィナスは、神の思考を人間が理解できるような尺度で推し量ることへの自制を求める。この世には我々の記号体系や言語が全く通じない他者があり、それらを他者のまま受け入れることの哲学を、レヴィナスは展開したのである。まさに、環境資本や制度資本などを、お金という統一的な尺度で推し量ることは、デカルトやベーコンにはじまる西洋の近代哲学の帰結であろう。そうした中で、我々の尺度では測れない社会的共通資本を、そのまま受け入れることを宇沢氏は我々に求めているように感じる。 しかしながら、全くの他者と言う形では、あさましい人間には対策をすることができない。環境への負荷を一定のレベルで資本主義の世界に落としこむ必要性もある。そんな中で、まさに2022年の現在、カーボンプライシングやカーボンニュートラルが叫ばれる30年以上前に、宇沢氏は炭素税のアイデアを世界に発信している。ただ、炭素税を課税することは産業構造の形もあるため、発展途上国に対しての平等に反するため、それぞれの国が持続的に発展できるよう係数をかけた「比例的炭素税」であるべきとも述べている。さらにその課税によって集まったお金を大気安定化国際基金として、一定の割合で発展途上国の熱帯雨林の維持、農村の維持、代替エネルギーの開発費用などに充てようというアイデアも展開している。この宇沢氏のアイデアは、エネルギー消費大国であるアメリカに否決され、排出権取引という形に変えられてしまう。排出権取引は、そもそもの排出権の割り当てに恣意性が働くゆえに、環境への対策とは異なる国力のある大国に有利に働いてしまうこともあり、根本的解決にはならないという点を宇沢氏は指摘している。現在のESGに関する動きとみると、よりミクロなビジネスの領域で、環境負荷という形で外部化されたコストをどのように価格に反映させるかという議論がさかんになっているところを見ると、宇沢氏の先見性には驚くばかりである。私はビジネスマンであるために、なんとかこのようなミクロなビジネスの枠組みの中で、環境負荷を価格に反映させる動きを加速させたいと考えているが、そのような思想的源流はやはり宇沢氏のアイデア(特に『自動車の社会的費用』)にあると思う。次回は、『環境問題を考える』と読もうと思う。巷のESG解説本も興味深いが、GWこそこのような骨太の本を読んでみたいと思う。

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2021/08/09

この人が奨めるのだから間違いなかろう、ということで経済は苦手なのだが手に取ってみた。東京大学から36歳でシカゴ大学の経済学部教授になりベトナム戦争への反発もあって東京大学の教授に転じられて長く経済学の第一線で活動されてこられた方で風貌も特異なことから自分には理解できない難解なこと...

この人が奨めるのだから間違いなかろう、ということで経済は苦手なのだが手に取ってみた。東京大学から36歳でシカゴ大学の経済学部教授になりベトナム戦争への反発もあって東京大学の教授に転じられて長く経済学の第一線で活動されてこられた方で風貌も特異なことから自分には理解できない難解なことを話される方、という決めつけをしておりこれまで触れたことがなかったのだがここまで分かりやすい話をされる方だとは思ってもみなかった。元々は数学者になるはずがより社会の問題に関わりたいという意向で経済学に転じられたという経歴らしく、公害問題や環境問題に対し具体的な関与をされて来られたところも素晴らしい。「富を求めるのは、道を開くため」というのが経済学者としての基本的な姿勢とのことで同じシカゴ大学の経済学者フリードマンをはじめとする市場原理主義とは一線を画す考えを提唱、実戦されようとして来られたようで本作品でもいくつかの印象深いエピソードが紹介されている。いわばSDGsのような言葉ができる前からそのような考えを提唱されてきたわけで不学を恥じたので著作をいくつか読ませてもらいたいと思いました。お酒が好きでアドバイスを求められたローマ法王に対して酒の勢いもあって説教をしてしまったなど人間臭いエピソードも魅力的。面白かった。これはおすすめです。

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2021/04/21

経済学者かくありきという感じ。SDGsが生まれる前からよほどサステナビリティと生命の幸福を追求してきた学者。

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2021/04/01

2021年4月「眼横鼻直」 https://www.komazawa-u.ac.jp/facilities/library/plan-special-feature/gannoubichoku/2021/0401-10058.html

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2021/02/08

市場原理主義、フリードマンの批判がとても良かった。排出権取引に至るアメリカのスタンスを見るとすさまじい。 学問、医療、農村などの記述は共感する。ただどうすればいいのか、社会的共通資本は改めて理解しておきたいと思った。

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2022/05/07

Facebookで勧められた宇沢弘文の考え方を表した良書.資本主義が金という単一の評価に基づいていることを批判している.

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2020/10/19

「国富論」のなかにあった"There is no wealth, but life."を「富を求めるのは、道を開くためである」と訳し、基本姿勢とした。 ヴェブレンや石橋湛山に共感。 ヴェブレンの最も重要な考え方である、金融制度は経済的な生活が円滑にいくために存...

「国富論」のなかにあった"There is no wealth, but life."を「富を求めるのは、道を開くためである」と訳し、基本姿勢とした。 ヴェブレンや石橋湛山に共感。 ヴェブレンの最も重要な考え方である、金融制度は経済的な生活が円滑にいくために存在しているのであって、そこで売り買いをして儲けるためではない。また企業は永続的なもので、皆がそこで仕事を持ち生活していくための基礎になっているのだから、儲けばかりをもとめて簡単に売ったり買ったりしてはいけない、ということ。 ケインズの「一般理論」ではこの考えをそのまま使っているところがあると指摘。 社会的共通資本は、いかに自然を大事にして、自然の恵みを十分に享受できるような制度を作らなければいけないか。医療や教育、自然環境が大事な社会的共通資本だが、もう一つ付け加えるなら「平和」こそが大事な社会的共通資本。 こうした考えがベースにあることから、ミルトン・フリードマンのように市場原理主義に対して酷評。

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