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離陸 の商品レビュー

4.1

17件のお客様レビュー

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2017/09/14
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

死を表現するのに、かつては彼岸此岸というように船旅だった。 どこへ流されていくのかわからない水の流れ。 今回は飛行機の旅にアップグレードされた。 あの広大な待機所で、多くの飛行機が離陸を待っている、というイメージもしっくりくるし美しいし、離陸した飛行機がどこへ向かうのかもわかっている。 しかしそこがつまりはどんなところなのかは、ぼくらにはわからない。 結局人間にとって生死の在り方は変わらないのだ。 変わるのは寓意を読み取る人間の側が、何に生死を重ねて理解できるか、だけだ。 解説で池澤夏樹が村上春樹のクエストものみたいと言っていて、同感。 確かに巻き込まれ型の主人公、女性関係で巻き込まれるという状況、主人公が非主体的に全体を把握するようになる次第とか。 謎に満ちた長編を書くとき、ある程度似てくるのか……。 しかし孤独感の在り方が、似ているようで異なっている。 初期ハルキ好き後期ハルキ苦手、絲山秋子は初期後期問わず好きな者としては、絲山秋子に寄って、 おじさん的な若さや幼さに対する手放しの賛意がない、という点に理由を見つけたい。 箱庭的小説、ではない。 この小説の空は高い。現実以上に。 ほんとうに、ほんとう以上に、この世界は在り、この人たちは読者と連続する空の下にいるかのようだ。 (いない人こそが重要、語り手が対面していない人物が「効いてくる」ことの小説的効能。) 再度池澤夏樹の解説に戻るが、読み終えたいま、もうみんな友達になったような気がしているからだ。 謎は謎のまま。 時間は容赦ない。 なぜなら語り手は決して「物語の主人公ではない」からだ。語り手は部外者。観察者。小説はもはや近代のロマンスではありえない。 語り手の生活は徹頭徹尾、散文的。人の生き死にすら劇的ではない。 小説中のあらゆる人物は、物語的に展開しようとする志向、読み手にとってのおもしろさなど気にせずに淡々と過ごそうとする志向、に引き裂かれるのだろうと思うが、 この小説の語り手は、ぼくは淡々といいつつ結構劇的という、このスタンスが春樹に似ているんだろうね。

Posted byブクログ

2017/08/04

同性の作家さんは読んでて変に冷めたりして入り込めないので敬遠しがちだが、彼女の名前の字面が好きで手にする事がある。 なんともオチのない結末なのに腑に落ちる。良くも悪くも草食な主役が周囲に振り回された挙句、どう離陸してどこに着地するか…読後にそんな事を考えるのがおもしろい作品。

Posted byブクログ

2017/07/29

へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を...

へぇ、絲山さんってこういうのも書くんだ、って感じの小説だった。ダム管理の現場から始まるから、らしいなって思ってたんだけど、読んでいくうちにミステリーのような、ファンタジーのような色合いが出てきてびっくりした。時空を超え、かつパリが舞台の一つになっていることから辻仁成の『永遠者』を思い起こさせるようなところもあったり。最後まで描かれなかったような、消化不良感のある終わり方なのは残念。ミステリーとしてなら、顛末まで読みたかった。 でも、この小説の骨頂は「離陸」なのだと思う。ここでいう離陸とは「ぼくらは滑走路に行列をつくって並んでいる。いや、まだ駐機場にいるかもしれない。生きている者は皆、離陸を待っているのだ。」(p.322)ということ。これはかつて読んだ『沖で待つ』と重なるようなところがある。主人公は近しい人との別れ、死をたび重ねるのだけど、それ以上でもそれ以下でもない、人生というもののとらえ方を描いているようだ。 それにしても、死を離陸と表現するのって面白いね。彼岸とかいうように、何となく船で渡るような感覚でいたけど、向こう側へは飛んでも行けるね、たしかに。

Posted byブクログ

2017/04/16

不思議な本。 ミステリーでもないし、恋愛小説でも、ファンタジーでもないが最後は、腹落ちのする本でした。

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2017/04/13
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

第一部 群馬・矢木沢ダム 第二部 パリ 第三部 熊本・八代 他の方のレビューで、村上春樹っぽいという指摘があった。 私も、読みはじめは なんだか春樹的? と頭の片隅にチラついた。 一人称が「ぼく」、謎の人物の登場、女性の行方を追う(主人公の本意ではない)、不意に人が死ぬ、基本的に主人公が振り回されている…と、たしかに春樹作品ぽい設定ではあるのだ。(解説で池澤夏樹さんもすこし言及していた) 弘にまつわる人々がそれぞれとても魅力的。私が好きなのは妹の茜とリュシー。茜が出てくる部分はパァッと物語世界が明るくなり、リュシーの聡明さに弘と一緒になって惹かれた(だからリュシーが死んだ時は本当に辛かった)。 ブツゾウが茜に惹かれたのはわかる気がする。 もっといろいろ書きたいけれど、胸がいっぱいで言語化できない。 静かだけれど、力のある作品だと思う。 池澤夏樹さんの解説も、よい。

Posted byブクログ

2017/04/20

なんと、自分でも驚いたことに、単行本で読んでいたにも関わらず、それを忘れ、新刊発刊ということだけで興奮、予約購入し、札幌行きの飛行機の中で満を持して読み始めた途端、読んだことがある!と思いつつも、どっぷり再読している今。。。札幌の夜、一人居酒屋で読んでいる今。 やはり初めて読んだ...

なんと、自分でも驚いたことに、単行本で読んでいたにも関わらず、それを忘れ、新刊発刊ということだけで興奮、予約購入し、札幌行きの飛行機の中で満を持して読み始めた途端、読んだことがある!と思いつつも、どっぷり再読している今。。。札幌の夜、一人居酒屋で読んでいる今。 やはり初めて読んだとき同様、胸に沁みる切なさのようなものがある。 傑作。

Posted byブクログ

2017/04/07

【失踪した〈女優〉を追って、平凡な人生が動き出す】時空を超えて足跡を残す〈女優〉とは何者か。大切な人を喪い、哀しみの果てに辿りつく場所とは。透徹した目で人生を描く感動長編。

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