多田駿伝 の商品レビュー
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多田駿の名前は参謀次長として聞いたことはあるが、ぞの前後での活躍は見た覚えがなく、どのような人なのか気にはなっていたが知りようがなかった。 だからこの新鋭の作家によって、まさに伝記が発刊されたのを知り、喜ぶと同時に地味なこの人の伝記におもしろいところはあるのだろうか、と余計な心配もした。 この本の一番の読みどころは、まさに次長時代の話で。蒋介石国民政府を相手にせずの近衛声明に表された交渉打ち切りに最後まで反対したところだろう。政府、外務大臣、海軍、陸軍大臣、参謀本部内の拡大派を相手に立ち向かったが敵わず、その後の南京攻略など対中戦争が激化泥沼化したが、唯一の反対派が陸軍参謀本部だったのだ。海軍の米内大臣も強硬派だったのだ。ここは大事な事実で、今までの陸軍悪玉海軍善玉論の小説、解説書では出てこない話である。初めてこの本で明示されたのではないだろうか。 また、石原莞爾とも先輩後輩で仲が良かったなども興味深いところである。 この作家は、多田駿の孫を探し出して話を聞き、遺品や遺稿など所蔵品を多く見ているので素晴らしい力作になったと思う。今後も大いに期待したい。
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対中不拡大派の多田駿氏の評伝。近衛内閣が蒋介石率いる国民政府に対し、相手とせずという声明を出す前、陸海両相、外相を相手に、閣議で交渉継続を訴えた中国通の軍人。 本書を読むと、対中国については、陸軍と海軍というよりも参謀本部の不拡大派(主に作戦実務を司る二課)に対して、拡大派が陸軍その他ならびに海軍という様相が見て取れます。 陸軍内で言えば、東条や杉山が論外なのはもちろん、海軍でも当時近衛内閣にいた米内海相までもが対中拡大派として動いており、戦後評価されている米内の評価はやはり疑問です。 いずれにしても現地の情勢や作戦実務に精通していた官僚の適切な意見を内閣ならびに閣僚が選択できなかった悪例は、今日でも反面教師になると思います。
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1937年の盧溝橋事件後も戦争の不拡大を主張した中国通で知られた陸軍中将・多田駿参謀次長の名前を覚えている人はそう多くない。結局,不拡大の方針は採られず,近衛文麿は「国民政府を対手とせず」の声明をだしてしまったからだ。また東條英機とも対立し,太平洋戦争前には予備役に編入されたこと...
1937年の盧溝橋事件後も戦争の不拡大を主張した中国通で知られた陸軍中将・多田駿参謀次長の名前を覚えている人はそう多くない。結局,不拡大の方針は採られず,近衛文麿は「国民政府を対手とせず」の声明をだしてしまったからだ。また東條英機とも対立し,太平洋戦争前には予備役に編入されたことも関係するのかもしれない。盟友の石原莞爾は有名だが,それとの関係で言及されることもほとんどないように思う。 実はこの多田駿のご子息である多田顕先生は,千葉大学から大東文化大学に移って,また日本経済思想史研究会でもご一緒させていただいたこともあり,よく存じ上げていた(1996年に逝去)。ご自身のお話はほとんどされたことはなかったように記憶しているので,お父上がこのように立派な軍人さんだったとはまったく知らなかった。 本書は多田駿の事績に留まらず,それを支えた思想にまで踏み込んだ本格的評伝である。
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よく調査されており、戦時中の歴史に残る傑物を発掘されたことは大変なお仕事をされたと敬意を表したいと思います。 ただ如何せん表現や構成に稚拙な点もあり、ノンフィクションの読み物としては今一つと感じました。ただ対象を見つめる視点は鋭いものがあると思いますので、ぜひ次回作に期待しており...
よく調査されており、戦時中の歴史に残る傑物を発掘されたことは大変なお仕事をされたと敬意を表したいと思います。 ただ如何せん表現や構成に稚拙な点もあり、ノンフィクションの読み物としては今一つと感じました。ただ対象を見つめる視点は鋭いものがあると思いますので、ぜひ次回作に期待しております。
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戦前・戦中の海軍=善玉、陸軍=悪玉の印象公式が揺らぎます。と云うのも著者があとがきでも綴って居た通り。 こんなにマトモな人が中央に居乍ら、日中関係硬化・悪化の後の太平洋戦争だったのなら、それこそ何かの見えざる手だとか、時代の気風の魔力としか言いようが無い。 禅僧の様な佇まいに日本...
戦前・戦中の海軍=善玉、陸軍=悪玉の印象公式が揺らぎます。と云うのも著者があとがきでも綴って居た通り。 こんなにマトモな人が中央に居乍ら、日中関係硬化・悪化の後の太平洋戦争だったのなら、それこそ何かの見えざる手だとか、時代の気風の魔力としか言いようが無い。 禅僧の様な佇まいに日本古来からの武将の様な仁・義・情に満ちた人柄。袴姿での証言台の映像がアーカイブで見られるとの事、早速探してみようと思います。 …と云う感想も、この著者の調査能力と筆力あってこそ。お若いのに、そして会社勤めの仕事と両立してノンフィクション作家であるという所が凄い。ノンフィクション作品の中には、まるで熱に浮かされたように自分の憶測から筋道を辿り(作り?)こじ付けて終わり、なんてのもザラですが、そう云う胡散臭さが全く感じられない。悪く言えばクールすぎる(笑)これが一冊目との事、今後の活躍が期待されます。
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