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みすゞと雅輔 の商品レビュー

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2017/04/14

金子みすゞにぼくがはまったのは、去年の春、妻とみすゞのふるさと仙崎を訪れたことからだった。大正期に童謡詩人として知られていたみすずは人々の記憶から忘れられて久しかったが、それを再び甦らせたのは、長年にわたってみすゞのことを追い求めてきた矢崎節夫氏の執念である。その矢崎氏にとって大...

金子みすゞにぼくがはまったのは、去年の春、妻とみすゞのふるさと仙崎を訪れたことからだった。大正期に童謡詩人として知られていたみすずは人々の記憶から忘れられて久しかったが、それを再び甦らせたのは、長年にわたってみすゞのことを追い求めてきた矢崎節夫氏の執念である。その矢崎氏にとって大きな転換点となったのが、みすゞの従兄弟の花井氏を通して、みすゞの兄である上山雅輔と出会い、かれからみすゞの残した三冊の詩集を渡されたときからだった。矢崎氏はみすゞの伝記『童謡詩人金子みすゞの生涯』を書くと同時にみすゞの三冊の詩集を本にして出版した。これによって、みすずの26年の短い生涯についてはかなりわかった。しかし、ぼくにとって気になっていたのは、みすゞがなぜ自死をとげたか。みすゞに淋病をうつした夫はそんな悪い人間だったか、さらにはみすゞの才能を敬い、みすゞを愛の対象とさえ考えた雅輔がなにを考え、その後どのような人生を送ったかである。それが今松本侑子さんの手によって著されたのだが、そこには雅輔の残した多くの日記の発見があった。松本さんは、それらの日記や多くの人への聞き取りを通じて、雅輔とみすゞをよりリアルな存在として描いた。タイトルは「みすゞと雅輔」であるが、ぼくはこの本は「雅輔とみすゞ」とすべきかと思う。(そうしなかったのは出版社の意向か?)本書は全体が雅助とみすゞの物語りになっている。松本さんによれば、それは史実に基づくフィクションだという。つまり、多くの部分は史実に基づいているものの、雅助の心理描写は想像による部分もあるということだ。それがすべて真実だったかどうかはわからないが、そうした想像がはいったからこそ、本書は生き生きと二人の関係を描写することに成功した。本書によれば、雅輔はみすゞを恋慕い、その結婚にも反対したりしたが、けっこうのうわきものである。それはみすゞとの関係が姉弟と知ったはらいせとは限らない。たとえば、東京で知り合い、後に妻になる容子と、博多で芸者をしている初恋の相手である初菊の両方をある時期天秤にかけている。容子との結婚式の前の日に初菊にあったり、容子が妊娠したら、初菊に会いにいったりしている。さいわい、容子の懐が深く強い女だったことと、初菊もいつまでもしがみつく人間でなかったから、なんとか修羅場を経ずにすんだが、それ以外でも雅輔は多くの女と関係している。雅輔の婚礼写真が巻頭に置かれているが、そこには「だれと」というキャプションがない。これは読み進めていて、はたしてどちらと結びつくのか読者をはらはらさせる松本さんの手法なのか。また、みすゞの夫であった宮田敬一に対しても松本さんは同情的である。宮田こそ、みすゞの義理の父である松蔵に店を継がせるとか言って振り回された犠牲者かもしれない。二人は本来性格が違い、婚姻生活を続けていくのは無理だった。さらには、淋病にしても当時の男はしばしば妻にそうした病気をうつしていたらしい。しかし、ここはちょっと宮田をかばいすぎている気がする。だから、本書では宮田の口から、二人の性格の違いや松蔵に対する恨み節はあっても、病気を移したお詫びがないのである。

Posted byブクログ