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名誉と恍惚 の商品レビュー

3.9

10件のお客様レビュー

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2024/01/08

「名誉と恍惚」(松浦寿輝)を読んだ。
上海の共同租界行政府である工部局の警察官芹沢の半世紀に及ぶ人生の軌跡と辿り着いた場所での充溢した魂の咆哮。
760頁の傑作長編。
これはまさにハードボイルドだわ。 
『深い、強い、痛切な喪失感。取り返しのつかない何かを失い、その悲嘆を耐え、耐...

「名誉と恍惚」(松浦寿輝)を読んだ。
上海の共同租界行政府である工部局の警察官芹沢の半世紀に及ぶ人生の軌跡と辿り着いた場所での充溢した魂の咆哮。
760頁の傑作長編。
これはまさにハードボイルドだわ。 
『深い、強い、痛切な喪失感。取り返しのつかない何かを失い、その悲嘆を耐え、耐えることに疲労しきっている……。疲労の果てに悲嘆が徐々に諦念へと収まりかけ、しかしまだ収まりきれずにいる……。』(本文より)
上海の裏世界の支配者の第三夫人美雨(メイユ)を1ページにわたって描写するその文章に震える。 
読んでいる間私はずっと、チャンドラーがこの世に生み出したフィリップ・マーロウという男のことを頭の隅で思っていた。(彼の物語とはなんの共通項も無いのだが)

Posted byブクログ

2019/01/29
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

松浦寿輝「名誉と恍惚」(新潮社)は、2016年、話題をさらった作品だが、読み終えて考え込んでしまった。小説を映画化する話はよくある。では、その逆は、映画のように小説を書くということに込められた意味は何だろう、というのがこの長い長い小説を読みながら浮かんできた問いだった。 始まりは1937年、事変直後の上海共同租界。小雨の外白渡橋(ガーデン・ブリッジ)を紺色の背広を着た一人の男が渡っていく。彼がポケットから取り出した折り畳みナイフの刃がきらりと光る。検問所で誰何された男は「工部局警察部芹沢一郎であります。」と日本語で答える。 男はビルの入り口で待っていた軍人に促され、「百老匯大廈(ブロードウェイ・マンション)」の19階まで昇降機で登る。そこで待っていたのは陸軍参謀本部謀略科嘉山少佐。 「百老匯大廈(ブロードウェイ・マンション)」は三年前に竣工した、当時、東洋一の高層ビル。その最上階の高級レストラン。眼下には豪華絢爛な魔都上海の夜景、と思いきや。 《ついひと月前までなら、この場所から眺める上海の夜景は壮麗のひとことだったに違いない。立ち並ぶ外灘(バンド)のビルには数多の窓が明るく輝き、南京路を中心とする繁華街のナイトクラブやキャバレーのネオンサインの煌めきが、さぞかし目に華やかに映じたことだろう。このレストランには多種多様な国籍の着飾った男女が集まってきて、その夜景を楽しみながら凝った料理に舌鼓を打っていたことだろう。今、芹沢が窓から見下ろす夜の上海の町は暗かった。― 略 ― ひと月前までの上海なら、こんな雨降りの夜でも街の照明が雲に照り映え、それが微光となって大気中に揺曳し、それが窓から射し入ってこのテーブル席をもっと明るく照らしてくれていたはずだ。》 本来なら上海のきらびやかな夜景を一望するはずの、展望レストランには客らしい客もいない。戦争が始まっているのだ。上海を統治する国際組織工部局警察に所属する日本人警察官を待っていたのは、帝国陸軍参謀少佐。 この日からの主人公芹沢一郎の二年間が小説のメインストーリーとして描かれている。700ページに渡る描写は、あたかもカメラを駆使して描く映像のような印象を読者に与えずにはいない。奇想天外な小道具、波乱万丈の筋運びに至っては映画そのものだ。何しろ、主人公に映画館の撮影技師という役回りまで演じさせるのだから、作家の映画に対する、ある種フェティッシュな感覚がこの小説にはあふれている。 エピローグ、最終章で芹沢は、78歳という老齢の男として50年ぶりに外白渡橋(ガーデン・ブリッジ)の上に立つ。あのころ、いつもポケットに入っていた折り畳みナイフが何時失われたのか、記憶のかけらを探るように、いぶかしみながら佇んでいる。 通りかかった、楽しげな旅行者である日本人女子学生に頼まれて、娘たちのスナップ写真を撮る。最新式の日本製のカメラを手にして、思わず口にした久しぶりの日本語を耳ざとく聞きつけられて、「なあーんだ日本の方なんですね。」と声をかけられた芹沢は、一転、険しい顔をして答える。 「I am not Japanese.」 あれから五十年、生きのびた彼がなぜ、ここで、こう答えるのか、小説を読んでいただくほかはないが、ここでもまた、エンドロールへ転換する直前の映画のように登場人物のその後、物語の結末が語られている。錯綜した出来事を経験し、こうした生きのびてきた主人公を支えていたのは、こういう内面だったのですよと映画監督が見せてくれる解説のような、最後の数ページがある。 映画の結構に倣って小説全体のキーワードは、もちろん「名誉」と「恍惚」だったということが、わざわざ念押しされているようなエピローグを読み終えながら、映画的に書かれている方法に対して、そして、決して映像を見るようには読み進められない冗長さに対して、「ほんとうにそれが書きたかったことなのだろうか?」という訝しさが残ったのだが、それを差し引いても面白さは一級品だった。 長いですが、いかがでしょうか?(S)

Posted byブクログ

2018/11/14

すごい熱量をページ数からも内容からも感じた。カッコいい。 あぁ、そっちへ行ってはダメだよ、と思うけど行かずにはいられないのでしょうね。最後のビリヤードのシーン、震えたわ。

Posted byブクログ

2018/10/16

第二次上海事変を背景にした長編サスペンス。 純文学作家の長編小説単行本なんてもう売れないので、買う人はいくらでも買うだろうという強気の値付け。でもこのくらいの値段なら地図を付けて欲しいと思いました。上海は行ったことがなく全く土地勘がないので、google mapをみながら読了。 ...

第二次上海事変を背景にした長編サスペンス。 純文学作家の長編小説単行本なんてもう売れないので、買う人はいくらでも買うだろうという強気の値付け。でもこのくらいの値段なら地図を付けて欲しいと思いました。上海は行ったことがなく全く土地勘がないので、google mapをみながら読了。 https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1W9yS6AZJj4pU6XCjAnMlCEr8nNYiSxCO&ll=31.279931371304436%2C121.43616432897943&z=11

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2018/07/22

これははまった。1930年代の上海を舞台にして繰り広げられる、ある警察官の男の物語。その予断を許さない展開が、読み進まずにはいられない境地へいざなわれ、急き立てられるかのように、話を追っていった。 壮大な大河ドラマ、といった趣き。随所に性的に濃密な描写もあるが、この物語を現実感...

これははまった。1930年代の上海を舞台にして繰り広げられる、ある警察官の男の物語。その予断を許さない展開が、読み進まずにはいられない境地へいざなわれ、急き立てられるかのように、話を追っていった。 壮大な大河ドラマ、といった趣き。随所に性的に濃密な描写もあるが、この物語を現実感をもって成り立たせているための、重要な要素といえよう。また、「腥い」という語句が文中に何度も登場する。「なまぐさい」と読むと初めて知ったわけだが、そうこの小説は相当に腥い。何というか、生ぬるい空気感とともに、実際にかいだら顔をしかめそうな、そんな腥さが実際に漂ってくる、こんな小説は初めてだ。 図書館で借りて読み始めたが、700ページ越えのハードカバーで手にとりづらく、しかし途中まで読んでやめられなくなったので、電子書籍で購入。お値段張ったが(4,320円なり)、その価値は十分あり。読み応えのある、時間を忘れさせてくれる一冊だった。

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2018/04/25
  • ネタバレ

※このレビューにはネタバレを含みます

日中戦争時、上海で工部局に属する警官芹沢。陸軍参謀の嘉山に青幇の蕭と面会したいと頼まれるが、そこから芹沢の運命は動き出す…760ページの超大作。戦争について、人種について、軍について、テーマがいくつかある。日本人と朝鮮人の子供であることの芹沢の苦悩、日本に捨てられたことの苦悩、埠頭での恍惚のシーン、よく描かれている。長いが飽きさせず(いや、しかし長かったけれど)、充分本の中の世界に、芹沢が生きてきた世界に浸れました。

Posted byブクログ

2018/03/24

戸籍には記載されない出自として日本の母と朝鮮の父を持ち、日中戦争初期の上海で日本の支那駐屯地と一線を画す上海共同租界の警察官という職業を持つ主人公が、日本が戦争という形で外の世界と軋轢を起こしながら不可逆な道を進んで行く時代に、そのアイデンティティにより不可避な運命に巻き込まれて...

戸籍には記載されない出自として日本の母と朝鮮の父を持ち、日中戦争初期の上海で日本の支那駐屯地と一線を画す上海共同租界の警察官という職業を持つ主人公が、日本が戦争という形で外の世界と軋轢を起こしながら不可逆な道を進んで行く時代に、そのアイデンティティにより不可避な運命に巻き込まれて行く濃厚な日々の物語。いや不可避と言うより、衝動的にプロアクティブに運命に飛び込んで行く物語なのかもしれません。その行動のドライバーが「名誉と恍惚」、書名になっているキーワードです。徹底的に主人公のボーダー性は重ねられていて、性愛についても男女それぞれに向けられているし、芹沢という日本人の名前から沈という中国人の名前に変わって行くプロセスが本書の縦糸になっているし、馮という老人のつくる人形への愛情もオタク的ボーダーレス感を感じました。そんなキャラ設定された主人公がどんどん日本から離れて行きながら、でも日本人を意識し続けて行動し続けていきます。童謡「ふるさと」でイメージされる日本が日本だけではない、外地でも日本人であり続けるというテーマは右傾化という内向き志向が拡がっているように見える昨今において作者からのメッセージとして受け取りました。それにしても芹沢一郎の一人称で大きな運命に瞬間瞬間立ち向かっていく進行なので大著なのにハラハラドキドキしながらアッと言う間に読めます。映画見ているみたい。凄い筆力。

Posted byブクログ

2018/03/09

好き。 大傑作。 芹沢一郎。 心理描写が丁寧で、 「彼の気持はあたしの気持」 っつーくらい入り込んでくる。 丁寧に読めたと思う。 うちの家族全員が、読書しているあたしに向かって、 「それ辞書?」 と聞いてきたのも良い思い出。

Posted byブクログ

2018/02/15

まあすごい大作です。 長い小説はその世界観にどっぷり浸かれるかどうかが、読み疲れるかどうかの瀬戸際だが、これはもう上海の雰囲気、匂いまでが伝わってくるのがすごい。 心理描写や独白はクドイと思われる向きもあるかと思いますが、これらの多用によって夢かうつつかの戦争のなかの混沌というイ...

まあすごい大作です。 長い小説はその世界観にどっぷり浸かれるかどうかが、読み疲れるかどうかの瀬戸際だが、これはもう上海の雰囲気、匂いまでが伝わってくるのがすごい。 心理描写や独白はクドイと思われる向きもあるかと思いますが、これらの多用によって夢かうつつかの戦争のなかの混沌というイメージをうまく表現してるとおもいます。

Posted byブクログ

2017/05/09
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※このレビューにはネタバレを含みます

GW頑張って読んだけどつまんなかった!苦力になったのに憑さんが助けてくれて映画技師になるとか美人が家に住まわせてくれるとかついてけない。洪が一夜開けて照れて口数多くなってる朝食シーンは良かった。

Posted byブクログ