太陽王ルイ14世 の商品レビュー
とても読みやすいフランスの歴史書。 ルイ14世のせいじや思考、何故ベルサイユ宮殿 が建設されたのか子供時代の内紛へのトラウマ から、絶対王政へのこだわりがとても強い。 その太陽王子と呼ばれたルイ14世の足跡は 現在のベルサイユ宮殿に見る事ができる。
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鹿島茂『太陽王ルイ14世』角川書店,2017 単純に楽しみでよんでいる。鹿島氏の本は長いのに読みやすくて好きである。といっても、読んだのは『怪帝ナポレオン三世』と『明日は舞踏会』くらい。この本が読みやすいのは、たぶん、疑問の提起のしかたとか、用語の解説などがいい具合にはいっているからではないかと思う。いわば講義式である。 考えてみれば、絶対王政(的なもん)というのは、歴史をみるときに大事である。どんな国にしろ国として一体であるからには中央集権の側面があるんだが、いきなり官僚制と市民社会ができたわけじゃなくて、まず、王と臣民(要するに王様以外は平等)という関係ができ、革命がおこって市民社会が(いちおう)できあがるんである。 で、絶対王政をやるには、いろんな利権をもっている貴族をおさえこんで、官僚制をつくって上意下達のしくみをつくらないかんのだが、既得権益をもっている人間を黙らすのはそう簡単じゃない。反乱やら陰謀やらがいっぱいである。 この本では官僚制とは、べつに「宮廷」をつくって、儀礼の力で、貴族を相互に牽制させ、飼いならしながら、親政をすすめていくルイ14世の姿がかかれている。 とはいっても、メインはヴェルサイユ宮殿の建設にからむ男女の恋愛の話だったりする。 ルイ14世の初恋はマザラン枢機卿の姪のオランプ・マンシーニで、彼女が文学少女だったから、ルイも勉強をしたそうだ。スペインとの政略結婚で、マリア・テレーズを妻とするが、弟の妻(アンリエット・アングルテール)と不倫し、この不倫がバレないように、アンリエットの提案でルイが侍女のラ・ヴァリエール嬢にご執心ということにしようと示しあわせるが、なんとも可憐なこの侍女にルイが本気になってしまい、公認の愛人となってしまう。その後、美貌でイジワルなモンテスパン夫人がルイの寵愛を略奪する。「媚薬」をつかったり、「黒ミサ」までしたというからスゴイ。これは関係者の取り調べ資料にのっている史実だそうだ。晩年はマントノン侯爵夫人と秘密結婚するが、彼女は信心深い女性で、なんとも落ちついた関係になるが、ナントの勅令を廃止して、プロテスタントを弾圧したのは、コルベールの産業振興を台無しにしてしまった。スペイン継承戦争など、晩年の二つの戦争も実質敗北であった。 ルイ14世の弟は、将来兄をしのぐことがないように、幼いころから女装で育てられ、同性愛の相手もあてがわれたそうだ。 社会史としておもしろいのは、エマニュエル・トッドなどの家族類型人類学を引いて絶対王政の成立を論じている部分である。パリ周辺は平等相続の家族だったけど、南仏や30年戦争でえた北部などは長男が家産を相続する直系相続で、次男・三男が土地を与えられずに独立せねばならず、教会や軍隊にながれ、この次男たちが官僚制を支えたようである。直系家族は土地が分割されないから、村としてのまとまりもよく、租税もかけやすくて、次男たちが余るから徴兵もしやすいらしい。また、将来、次男たちが独立しなければならないから読み書きを家庭で教えるから、識字率が高くて勤勉だそうである。プロテスタントというのはこういう直系家族類型におさまるようである。 ポルトガル史を読んだときも、次男・三男のために初期アフリカ探検航海が行われたと書いてあったが、案外、この問題は大きい。柳田国男も「日本の都市は次男らがつくった」(『都市と農村』)でいっている。租税の納入などの仲介で農村の次男らが都市に住み込んだらしい。中国の場合は均分相続だから、名家も何代もつづくと土地が分割されて没落する。だから大きな家族が徒党を組んで、勝手に湖を埋めたてたり、いろいろとたいへんなことが起こる。歴史の原動力というのは、こういうところにあるんかなと思ったりした。 そのほかにも、ヨーロッパの王族の名前(アンリとかシャルルとかルイとか)は、支配階級のゲルマン系の名だとか、妃は国名を氏とするというような、基本的なことも書いてある。アンヌ・ドートリッシュは「ド・オーストリア」の意味だし、弟の妻は「ド・アングルテル(英国)」で「ダングルテール」なんだそうだ。 著者の「ドーダ」史観は文学者ならではで、おもしろいが、歴史としてそこまでいいきれるのかというのは疑問に思う。なかなか心理というのはわからんものだ。
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