羽ばたき の商品レビュー
「死の素描」を始め危うい世界観。 「羽ばたき」怪盗ジゴマごっこをしていた少年ジジは,母の死後,本当の泥棒に。少女に扮するジジを付回す男との事件後,鳩と共に塔から飛立つ。
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200ページほどに22の短編が掲載されています。 短いものは、たったの1ページ。 初期ファンタジー傑作集という副題付きです。 けれど、ファンタジーという言葉から感じる 甘く優しい雰囲気とは ほど遠い印象を受けました。 堀辰雄氏の表現は、繊細で美しく文学的。 けれど、どこをとって...
200ページほどに22の短編が掲載されています。 短いものは、たったの1ページ。 初期ファンタジー傑作集という副題付きです。 けれど、ファンタジーという言葉から感じる 甘く優しい雰囲気とは ほど遠い印象を受けました。 堀辰雄氏の表現は、繊細で美しく文学的。 けれど、どこをとっても悲しみと苦しみを感じます。 堀氏は 関東大震災で母親を亡くし、 自らは二度の入院生活を余儀なくされ 貧困生活に苦しみ、 パートナーには療養所で先立たれてしまったそうです。 辛い現実を夢の中に落とし込めることで昇華させたい。 作品からそんな想いを受けたのです。 解説にこんな表現があって、腑に落ちました。 「現実と夢を意志の力で逆転させる、観念的革命」 現実逃避ではなく革命…ということなんですね。 この作品の表題になっている短編「羽ばたき」には 少年のジジとキキが登場します。 この作品は 実はとても悲しいお話なのですが、 『魔女の宅急便』の原作小説を書いた角野栄子氏は この作品にちなんで主人公の名前を付けたそうです。 ジジとキキの友愛と、飛ぶことの達成を描いたのだと。 「風景」という作品には画家のルソーが出てきます。 《僕の見た風景は、 ルッソーに描かれつつあるのを意識して 緊張していたのではないか。 その意識的な美しさが、第三者の僕までを あんなにも感動させたのではないか》 風景が自分の状況を意識して緊張するという表現に ハッとして心打たれました。
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主に大正末~昭和7年の間に発表された初期の作品群を収録。(と言うことは、主に作者が20代のころに書かれた作品達) 堀辰雄が軽井沢を舞台にする作品を書く前の、浅草や銀座を舞台にしたモダン都市小説の数々はとても新鮮でした。 川端康成の書いた浅草紅団を彷彿とさせるような「水族館」、謎の...
主に大正末~昭和7年の間に発表された初期の作品群を収録。(と言うことは、主に作者が20代のころに書かれた作品達) 堀辰雄が軽井沢を舞台にする作品を書く前の、浅草や銀座を舞台にしたモダン都市小説の数々はとても新鮮でした。 川端康成の書いた浅草紅団を彷彿とさせるような「水族館」、謎の女とそれに惑わされる青年を描く「眠れる人」や「とらんぷ」、そして軽井沢で出会った某母子との実際のエピソードを彷彿とさせる「刺青した蝶」、ケルト文学の片鱗がみえる「魔法のかかった丘」とどれも短いながらにモダンで面白かった。凌雲閣やルナパークなど出てくる作品を堀辰雄も書いていたんですねぇ。 この時期の作品群、ちょっと渡辺温を彷彿とさせるテイストが私の好みでした。 「Say it with Flowers」の冒頭には、佐藤春夫(のペット)が出てくるよ。
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高校生時代、教科書に載っていた「花あしび」と題された堀辰雄の文章が好きだ、と口にしたのを教師に聞きとがめられ「どうも、女学生みたいな趣味だね」と言われたことを覚えている。自身も小説などを書いているようなことを聞いており、青臭い学生の議論にもこころよく応じてくれる人だった。三好達治...
高校生時代、教科書に載っていた「花あしび」と題された堀辰雄の文章が好きだ、と口にしたのを教師に聞きとがめられ「どうも、女学生みたいな趣味だね」と言われたことを覚えている。自身も小説などを書いているようなことを聞いており、青臭い学生の議論にもこころよく応じてくれる人だった。三好達治の『甃のうへ』をローマ字書きで板書しつつ、詩の押韻について触れ、詩への関心を引き出してくれた恩人であったが、どうやら小説の好みは当方とはちがっていたようだ。 堀辰雄といえば、軽井沢や信濃追分といった高原を舞台にしたサナトリウム文学が有名だが、ここに集められたのはそれらとは少し趣を異にする。高原を舞台にしたものも混じってはいるもののどちらかといえば、都市、それも浅草や銀座といった盛り場を舞台に取った掌編が主である。初期ファンタジー傑作集と銘打たれており、たしかに妖精や天使は登場するが、ファンタジーというよりはむしろ、どちらかといえば、フランスでいうコントではなかろうか。 若書きといえばいいのか、文章などもまだまだ推敲の余地があると思われる、無駄の多い野暮ったいもので、のちの堀辰雄の確立されたスタイルからは程遠い。ただし、当時流行りだしていた都会風のモダニズムの雰囲気は濃厚で、初出が「新青年」という作品も一篇ある。読んでいて思い出したのは、江戸川乱歩、稲垣足穂、萩原朔太郎、谷崎潤一郎、芥川龍之介、それに佐藤春夫といった面々。 浅草十二階や怪盗ジゴマについての言及は江戸川乱歩と共通する好みを感じさせるし、ペパー・ミント酒は、足穂の『一千一秒物語』にも出てくるお馴染みの一品だ。特に、自分の身近にある風景をどこか異国の風景であるかのように再構成して作品の中に組み込む手法は、足穂が神戸界隈を扱う手捌きに酷似する。 堀辰雄は室生犀星の気圏に属するが、犀星の盟友、萩原朔太郎の『青猫』はたしか堀辰雄偏愛の詩集ではなかっただろうか。その萩原の詩にも登場する探偵も顔を覗かせている。『月に吠える』の中の「殺人事件」。「とほい空でぴすとるが鳴る。またぴすとるが鳴る。ああ私の探偵は玻璃の衣裳をきて、こひびとの窓からしのびこむ、床は晶玉。」をリライトしたかのような短編もある。 谷崎の影響は、江戸川乱歩にも萩原朔太郎にもあった変装趣味、それは男性の女装、女性の男装といった異装へのこだわりが感じられるもののほかにも、直接うかがわれるものとして奇術師「ハッサン・カン」の名前が出てくることからわかる。この名前は谷崎の『ハッサン・カンの妖術』に由来するが、芥川も、足穂も自作で引用している。 都会的で異国的、夢見心地といえば佐藤春夫の『西班牙犬の家』にとどめをさすが、堀辰雄が構築しようとした世界も、それに近いものがあったのではないか。これも直接作品名を挙げていることからして、おそらく間違いはあるまい。夢や眠りを主題にした作品が多いのは、作品世界を夢と現のあわいに置いておきたい願望もあったのだろうが、このころから胸を患い、療養生活を余儀なくされ、床に臥すことが多かったからかもしれない。 コクトオの『大股びらき』に触発されたと思われる、裸で抱き合う二人の女性の目撃談なんていう、ドキッとさせられるものもあって、どれもなかなか面白いのだが、一つ選ぶとするなら、掉尾を飾る「魔法のかかった丘」か。妖精の目撃談を人から聞いた話として朝子という女性に話して聞かせるものだ。この朝子というのは犀星の娘の室生朝子ではないかと思われるが、どうだろう。枠物語のスタイルを借りて語りだしながら、最後は話の中の妖精物語の中に溶け込んでしまうような静謐で余韻の残るエンディングが何とも言えない。 紙質も組版も文句なしで、遊び紙も入った本格的な造本であるのに、ファンタジーを意識した装丁なのだろうが、カバーがこれでは書店でまちがって児童書コーナーに置かれそうだ。可惜の感がある。堀辰雄ファンとしては愛蔵本に相応しい瀟洒な装丁で出してほしかった。
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