晴れ着のゆくえ の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
〇2枚の着物を巡る連作短編集 カバーは著者の紫根染の着物を写真に撮ったもの。内カバーは茜。紫と茜の襲をカバーで見ることが出来る。贅沢。 〇染色とスリランカのことを調べたくなる。 〇紫と茜が差し色に、それぞれの持ち主たちの人生が描かれている。 1:知恵 一九五一年 夏 おじいちゃんが育ててきたむらさき草で白い絹の反物を染めてくれた。右足がうまく動かないけど、そのむらさきの反物で仕立て上げた着物を着ると、からだの底から力が湧いてくるのだ。 …大切に育てられた紫根草で染められ、お家の人に仕立ててもらった着物が背中を伸ばしてくれる。 2:ともの 一九五一年 冬 孫の春子に着物をねだられた。もう一人の孫のむらさきの着物がうらやましいのだ。娘が嫁ぐときにあげなかった、夫からもらった茜染めの反物のことが胸をよぎる。春子のために、茜で染めた反物で長襦袢を作ってやろうと思った。 …いいご夫婦だな。夫も妻も、決めたことをとことんやり遂げる。 3:春子 一九五四年 春 わたしのお腹の中には竜が住みついている。わたしの願いを無視して、勝手に暴れ回るのだ。従姉妹の知恵ちゃんみたいないい子に、どうして意地悪してしまうんだろう。 …約束を守れなかった悔しさと申し訳なさ。お腹の中の怪物をおさえる紫と茜と約束。 4:アネット 一九五八年 春 ホテルに届けられたむらさきの着物と茜色の着物は、その対比が絶妙だった。だけど、春子の悲しそうな顔が浮かぶ。わたしは無理やりに奪ってしまったのではないたろうか。この着物は自分一人の楽しみに終わらせてはいけない。 …後悔だけで終わらず、友人に紫の想いと一緒に預けていく。 5:ハンフリー 一九六〇年 秋 父が亡くなった。家具も屋敷も売り払って、ただ父の集めていた陶磁器だけを手元に残した。恋人のアネットが茜色の美しい布を陶磁器とあわせてくれた。陶磁器の冷たい輝きを、布が優しく補っている。 …悲しかった。一緒に歩んでいくのかなと思っていたので。茜の表紙はこのお話を味わうためでも あるのか。 6:カトリーヌ 一九八〇年 秋 イラン・イラク戦争のニュースがテレビで流れる。パパが報道記者として行ってるスリランカでも内戦が起きている。手紙もなく、心配でたまらなくなったときにパパが帰ってきた。コインや紅茶の土産のほか、紫色の絞って染めた布を持ってきてくれた。 …チャンドラはアネットが紫に託したものを受け取っていたのだ。平和な時代だけがやってこなかった。 7:しをり 二〇一三年 秋 フランスで出会ったむらさきの布は、幼い頃に別れたままの母に会いにいくためのパスポートになった。 …約六十年の旅、知恵ちゃんと春子ちゃんの約束。
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孫の為に祖父がむらさき草を育て染めた着物が時代を越え、海を越え色んな人に愛され大切にされる。 そして50年以上かけまた持ち主と巡り会う。 素敵な着物を思い描きながら読めた。 どんどん新たな持ち主に変わるけれど、全てが繋がり夢中で読めた。 最後にまた元の持ち主に戻ってくるなんて素敵...
孫の為に祖父がむらさき草を育て染めた着物が時代を越え、海を越え色んな人に愛され大切にされる。 そして50年以上かけまた持ち主と巡り会う。 素敵な着物を思い描きながら読めた。 どんどん新たな持ち主に変わるけれど、全てが繋がり夢中で読めた。 最後にまた元の持ち主に戻ってくるなんて素敵だと思った。
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人から人へと物が受け継がれてゆく物語。 こんな風に物を大切にしたいし、 こんな風に大切にしたいと思える物に出逢いたい。
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