文は一行目から書かなくていい の商品レビュー
「ジャケ買い」ならぬ「タイトル買い」。 著者は芥川賞作家の藤原智美さんです。 道新の「各自核論」の執筆者でもあるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。 一応、文章を書くことを生業としている自分にとっては、なかなか刺激的なタイトルです。 その趣旨は、「最初の一行が書けないなら...
「ジャケ買い」ならぬ「タイトル買い」。 著者は芥川賞作家の藤原智美さんです。 道新の「各自核論」の執筆者でもあるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。 一応、文章を書くことを生業としている自分にとっては、なかなか刺激的なタイトルです。 その趣旨は、「最初の一行が書けないならほかのところから書き始めればいい」というもの。 有り体に言えば、思いついたことから書きなさいというところでしょうか。 文章を書き慣れていない人にとっては、随分と気持ちが軽くなるかもしれません。 もっとも、プロの書き手の中にも、思いついたことから書く方がいます。 たとえば、やはり芥川賞作家の長嶋有さんなんかがそう。 書きたい、あるいは、書けるシーンから書き、あとでパズルのように繋ぎ合わせて小説作品を作るのだそうです。 これを知った時、「そんな書き方があるのかっ!」と驚倒したことを覚えています。 話が逸れました。 本書はいわゆる文章読本の類でしょう。 ただ、類書と異なるのは、メールやSNSなど誰もが日常的に文章を書くようになったことを踏まえて文章術を指南している点。 デジタル化時代にあって、書くために考えることの大切さを説いた第6章は、とても示唆に富んでいます。 いわく、 「『伝わる』文章を書くことの秘訣を一つにまとめるとすると、それは日々の心の動きをないがしろにせず、自分の内面に目をとめて、それを言葉として残しておくこと以外にないのです。まわりくどい方法のようですが、これが文章術の王道です」 自分は愚にもつかない小説を書いて貴重な人生の時間を無駄にしている阿呆ですが、そんな阿呆にも得るところ大でした。 たとえば、 「読み手を特定の一人に絞って書く」 「文章にも〝勇気ある撤退〟が必要」 「読み手側に想像力を発揮する余地を残すのがよい文章」 などの助言は、いちいち腑に落ちました。 あと、これは自分もよくしていることなのですが、「すべて書いてしまわず、次の日に繰り越す」こと。 たとえば、小説を書くのはなかなかしんどい作業です。 何がしんどいと言って、机に向かって書き始めるまでが本当にしんどい。 ただ、前日に思い浮かんだことを敢えて全て書かずに数行残しておくと、翌日書き始めるのがとても楽です。 自分も文章読本の類は好きで結構読んできましたが、「すべてを書いてしまわず、次の日に繰り越す」というアドバイスには初めて出合いました笑。 あ、あと「ライターズハイ」ね。 長年、文章を書いていると、没頭してライターズハイの境地に達することがあります。 150枚の小説を書いていると、一度か二度はある。 これが堪らないから小説を書いていると云ってもいいかもしれません。 著者も「一度でもこの状態を体験すると絶対に、書くことをやめられなくなります。保証します」と語っています。 うんうんと頷きながら読みました。 文章のプロもアマチュアも、私のようにアマチュアに毛が生えたのに抜けてしまった者にも参考になる文章読本です。
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