湯女図 の商品レビュー
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作者不詳、来歴未詳の「湯女図」。吉原の遊女の地位を一時は脅かすほどに、江戸の町を賑わせた湯女6人を描いた一枚の絵に秘められた謎を、興味深く解き明かす一冊。こりゃ物好きの道楽の極みという、楽しい内容になっている。 なにしろ、それが全容でもないであろう屏風絵の一扇を捉え、その周囲に何が描かれていたかを彼女らが投げかける視線の向きから推測し、湯女の立場や、江戸幕府の施策、当時の社会情勢まで読み取ろうとする、実に意欲作。 本文にこうある; 「湯女とは何か。それは、江戸時代初頭に流行し、江戸幕府の最初の組織的な取り締まりの対象となった私娼である。私娼を廃絶し、遊郭を一地域に限定する政策は、幕府と吉原の相互の権益を保護する目的があった。このような歴史の文脈の中に、「湯女図」の意味も見出せるのではなかろうか。」 本書の分析を経ても作者は特定されず(そもそもそれは目的ではない)、ゆえにどういう意図で製作されたのかも推測の域を出ない。果たして上記のように歴史の文脈として「湯女図」に何らかの意味があったかは定かではないが、自分な好きな対象を捉えて、あーでもない、こーでもないと考察を重ねる行為の楽しさは伝わってくる。 “「湯女図」を視線のドラマ”と著者は言い、作中の湯女たちの視線を辿り、枠外に存在したその他の人物との関係を考察する。 枠外の人、つまり市井の人々であり、それはとりもなおさず世間ということになる。一般社会からの視線、対応、そしてそれらとの軋轢や葛藤を画面から想像していく行為が連綿と綴られていく。 美術関連の資料のみならず、風俗、文学、宗教と、広く古典を当たり、歩神子(あるきみこ)や熊野比丘尼(くまのびくに)等、巫女と遊女、娼婦の関係性と説き、中国・唐代の脱俗的な伝説的人物・寒山に作中の登場人物(真ん中の立ち位置の毅然と前を向く女性)を見立てることで 「湯女のあやうく逆説的な自由と聖性を表象し、視線の権力から解放してもいる」 と私説を展開する。 「湯女たちは、吉原の遊女を背後に、いわば時流の外へ歩み去る者としてとらえられているのかもしれない」 最後にこう言い放った時の著者の恍惚感が文章から滲み出ているようであった。
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