ジョージ・F・ケナン回顧録(2) の商品レビュー
ケナンは優れた外交官であると同時に歴史家であった。戦後秩序の最大の焦点であったヨーロッパと極東、就中ドイツと日本についてのケナンの構想は、ロシア史とヨーロッパ外交史への深い理解を下敷きにしている。第Ⅱ巻の記述は本書の中核をなすものだが、とりわけドイツと日本に関するケナンの分析は読...
ケナンは優れた外交官であると同時に歴史家であった。戦後秩序の最大の焦点であったヨーロッパと極東、就中ドイツと日本についてのケナンの構想は、ロシア史とヨーロッパ外交史への深い理解を下敷きにしている。第Ⅱ巻の記述は本書の中核をなすものだが、とりわけドイツと日本に関するケナンの分析は読み応えがある。 ドイツ問題についてケナンは時期によって分割論から再統一論へと立場を大きく変えているが、特筆すべきは、ケナンがドイツの再統一はそれがヨーロッパの一部に組み込まれる形で行われなければならないと考えていたことだ。歴史的にドイツ民族の分断はヨーロッパの不安定要因であり続けたが、他方で強大なドイツ国家の出現は周辺国の脅威であった。このジレンマを解消するには、統一されたドイツのエネルギーをヨーロッパというより大きな連邦国家に繋ぎとめるしかない。この歴史的洞察を踏まえたケナンの構想は今日現実のものとなったが、当時としてはいささか早過ぎたのかも知れない。(第19章) また極東については、地政学的見地からロシアと日本の勢力均衡がアメリカにとって最も好ましいと考えていた。これは日露戦争までのアメリカの極東戦略を踏襲するもので、現代リアリストの最右翼ミアシャイマーの「オフショア・バランシング戦略」(=拮抗するリージョナル・パワーを競わせて地域覇権の台頭を防ぐ)にも相通じる。ケナンは第二次世界大戦におけるアメリカの最大の失策の一つが、中国の過大評価と日本の過小評価であると考えていたが、実際日本の壊滅によって極東のパワーバランスは動揺し、アメリカ自身がその肩代わりをせざるを得なくなった。結局日本を弱体化させるマッカーサーの当初の占領政策は軌道修正(逆コース)を余儀なくされたが、その上でケナンが果たした役割は小さくない。(第16章)
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本書はケナンの名を一躍知らしめた「X-論文」とそれがトルーマン政権下で対ソ政策の基調となり冷戦が始まる時代を描く。日本問題への考察も重要だ。
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