思想戦 の商品レビュー
不穏なタイトルに惹かれて急ぎ読了したが、率直に言って期待外れという一冊。〈日本の戦時プロパガンダは軍事的効果という意味では失敗だったかもしれないが、社会管理の技術として戦後にも生き延びた〉〈日本の戦時プロパガンダは帝国主義と近代化のプロパガンダの延長線上に作られていた〉という着...
不穏なタイトルに惹かれて急ぎ読了したが、率直に言って期待外れという一冊。〈日本の戦時プロパガンダは軍事的効果という意味では失敗だったかもしれないが、社会管理の技術として戦後にも生き延びた〉〈日本の戦時プロパガンダは帝国主義と近代化のプロパガンダの延長線上に作られていた〉という着眼点は興味深いものの、何しろ「プロパガンダ」の定義が曖昧に過ぎる。そのため、記述が総花的で、肝心の「思想戦」イデオロギーの内実や歴史的展開・切断・節合の局面がまったく捉えられていない。とくに文学や文化にかんしては事実誤認が甚だしく(従軍ペン部隊=日本文学報国会とか!)、これは翻訳者と編集者の責任でもあるだろう。 見るべき点があるとすれば、英語資料を活用した第5章「三つ巴の攻防?中国大陸を巡る思想戦」第6章「「精神的武装解除」の実現?敗北に向けた準備」の二つ。アメリカ軍は中共延安の日本人捕虜たちを活用したプロパガンダ戦術に強い関心を向けていた(ディキシー・ミッション)。また、占領軍当局は、敗戦後の日本政府と競合しながら、戦時プロパガンダの専門家を雇用し活用しようとしていた。この二つの問題は、反体制側・体制側双方が、戦時プロパガンダの「遺産」をどのように資源化したか、という問題を示唆している。
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