トランプ政権で日本経済はこうなる の商品レビュー
2016年12月発行の本なので、スピード重視で質は二の次、というスタンスなのは重々理解できるのですが、正直この本のクオリティからすると、大和総研はレピュテーション・リスクも踏まえて本当に発行して良かったのか?と逆に心配してしまいました。 まず始めに良かった点を述べます。7章(金...
2016年12月発行の本なので、スピード重視で質は二の次、というスタンスなのは重々理解できるのですが、正直この本のクオリティからすると、大和総研はレピュテーション・リスクも踏まえて本当に発行して良かったのか?と逆に心配してしまいました。 まず始めに良かった点を述べます。7章(金融規制)、8章(エネルギー・環境政策)は感銘を受けました。しっかり調べられていてロジックもしっかりしているし、勉強になる点が多数ありました。ありがとうございます。ただしそのほかの章については残念ながらほとんど感銘を受けませんでした。 まず本論ではなく些細な点なのですが、引っかかった点を1つ。冒頭に著者がHBSの上級経営プログラム(AMP)に参加したことが書かれています。あとがきではこの時の印象として「米国は歴史観が欠如した国である」と述べられていますが、この結論の持って行き方がまったく理解できませんでした。AMPというのはビジネススクールのプログラムで、経営戦略、マーケティング、オペレーションなどビジネスをテーマにやる講座です(マクロ経済環境論もあるがメインではない)。逆に言えば、外国人が早稲田大学のビジネススクールを受講して、「日本は歴史観が欠如した国だ」と発言したら理解できませんよね。また「総じて表面的な議論が多い」、という記述もありましたが、受講生は世界各国から来ますので、中東から来た企業幹部やアフリカの国の政府幹部の授業中の発言をもって、「米国は歴史観が欠如した」と結論づけることもできないはずです。またあとがきにトランプ勝利の背景の構造問題として、突然①資本主義と民主主義の離婚、と述べられていますがこれはウォルフガング・シュトレークの論です。言及するならシュトレークの名前を出したほうがよいでしょう(そうでないと他人のアイデアのパクリだと思われてしまいます)。 また全般的な印象ですが、本書には「何かを言っているが何の意味もない文章」が散見されます。例えば「国家は確固たるビジョンに裏打ちされた体系的な外交政策を行え」というような文章。具体的にどんなビジョンでどう体系的かは明示されていません。さらにロジックがつながっていない箇所も散見されます。例えば同じ章の中のある箇所では白人の失業増加がトランプ政権を生む原動力になったと言っている一方で、他の箇所では移民排斥は労働力不足に拍車を掛ける、と述べていて、両方の文章は両立しません(両立させるには丁寧なロジック説明が必要)。 また自由貿易主義が正しく、これが国際経済学の出した結論で絶対なのだ、というスタンスの内容が本書を通じて記載されています。しかしこれが本当に正しいのでしょうか。NY大学のゲマワット教授はグローバル推進派ですが、規制の全くない完全な自由貿易主義は間違っていて、グローバリゼーションと規制の賢い組み合わせが大事だと述べています。わたしは現在の国際経済学の結論は修正を迫られているのだと思います(保護主義への先祖返りではないが、これまでの自由主義的グローバリゼーションは修正すべき)。一応シンクタンクを名乗っている会社なのですから、このくらいの問題提起を逆にすべきではないでしょうか。その意味で非常に残念でした。
Posted by
トランプ政権で日本経済はこうなる 日経プレミアシリーズ 著作者:熊谷亮丸 本書はトランプの公約や発言をもとに経済・通商政策を掘り下げ日本経済に及ぼす影響をマクロ経済・各産業・金融マーケットなど多角的に分析予測を試みる。 タイムライン https://booklog.jp/time...
トランプ政権で日本経済はこうなる 日経プレミアシリーズ 著作者:熊谷亮丸 本書はトランプの公約や発言をもとに経済・通商政策を掘り下げ日本経済に及ぼす影響をマクロ経済・各産業・金融マーケットなど多角的に分析予測を試みる。 タイムライン https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
Posted by
- 1