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青木雄二傑作漫画作品集 50億円の約束手形 の商品レビュー

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2017/04/25

ホントに傑作漫画作品集だった。この中に、青木雄二のエッセンスが詰まっている。累計1000万部を弾き出した「ナニワ金融道」のお陰で、おそらく遺族の下には未だ生活出来るぐらいの著作権料は届いているだろう、だからこれは遺族が新たなカネを稼ぐための作品集ではない。14年前若くして亡くなっ...

ホントに傑作漫画作品集だった。この中に、青木雄二のエッセンスが詰まっている。累計1000万部を弾き出した「ナニワ金融道」のお陰で、おそらく遺族の下には未だ生活出来るぐらいの著作権料は届いているだろう、だからこれは遺族が新たなカネを稼ぐための作品集ではない。14年前若くして亡くなった彼の作品が忘れられつつある現在に向けての、一つの抵抗なのだと思う。彼以降、金融道に似た作品は数多出現して、もっと過激なものも映像化されてヒットしている。しかしよく読んでいないのでハッキリとは言えないが、映画を観る限りでは、それらは現代の矛盾を描くところに留まっていて、下手をすると現代を仕方ないものとして肯定しかねない作品になっていると思う。金融道もそう言われれば、そう見えなくはない作品だった。しかしこの作品集を見ると、そこから一歩前に行こうとする意思が明確に感じられる。今の作者たちにその意思はあるのか? 金融道で下流の生活を描きながら、彼は「罪と罰」や「資本論」で学んだことを愚直に、真面目にわかりやすくマンガ化して来た。「神が人を作ったのではない。人が神を作ったのである」「社会を良くしてゆくのは人間の行動だけである。闘わずして血を流さずして社会は変革できないのだ」単純に言えば、それだけのことを、マンガ家になって10数年間で(滅多に主張しないけど)明確に主張していた。小気味いいほどである。 改めて見て、決してスクリーントーンを使わない彼の画は味がある。彼の女性の描き方は私の性には合わないが、彼の労働者、浮浪者の描写はとてつもなく味がある。そして初めて読んだけど、最終章の「ローカル線」は、青木雄二が青春時代を過ごした岡山県の弓削を舞台にしている。昔ながらの佇まいを残す弓削駅や、叔父さんが経営していた53号線沿いのレストラン「はいばら」(現在では閉店している)の風景は、とてもリアルで、細かい所にリアル性を求める青木雄二の真骨頂が現れている。 ここには、貴重な短編が一挙に収められている。岡山県や大阪の、マンガを置いている喫茶店は、せめてこの本ぐらいは置いておくべきだろう。 2017年4月18日読了

Posted byブクログ