北の喜怒哀楽 45年間を北朝鮮で暮らして の商品レビュー
10代の頃に「帰国事業」で北朝鮮に渡った著者が45年に渡って過ごした北朝鮮について、特に自らが経験した生活に重点を置いて記した本だ。 一口に「帰国事業」で祖国に帰った在日朝鮮人といっても、北朝鮮での「扱い」は千差万別らしい。 著者の家庭は、日本で貧困に苦しみ、朝鮮総連との付き合...
10代の頃に「帰国事業」で北朝鮮に渡った著者が45年に渡って過ごした北朝鮮について、特に自らが経験した生活に重点を置いて記した本だ。 一口に「帰国事業」で祖国に帰った在日朝鮮人といっても、北朝鮮での「扱い」は千差万別らしい。 著者の家庭は、日本で貧困に苦しみ、朝鮮総連との付き合いも一切なかったにもかかわらず「北朝鮮では子供が学校に通える」との言葉に騙されて(ほとんど父親の独断によって)北に渡ることになったらしい。 彼らを待っていたのは「地上の楽園」とは程遠い、着いた瞬間に「騙された」と感じるほどの場所だった。そしてその「祖国」でも待っていたのは差別だ。 まず、帰国者の中でも総連幹部やその家族は優先的に都市部に配置される。次に日本から多くの資産を持ってきた人たち、彼らは住みやすい南部に配置された。そして著者家族のような「貧民層」の大多数は北部の山間部に配置された。 口では同じ民族、といいながら、帰国者は大学入学や仕事の面で不利な状況に置かれる。筆者は「とにかくご飯がお腹いっぱい食べたい」という思いから重労働である鉱山の仕事に志願するのだが、山間部の鉱山にはこうした帰国者がかなりの人数いたらしい。 帰国者だけでこっそりと山に登り、日本の歌を歌いながら親交を深めたりする様子も描かれており、現在の北朝鮮と比べると比較できないほど「自由」な雰囲気(あくまで比較で、だが)なのだが、やはり帰国者であるということで差別されたり、劣悪な労働環境で友人が死亡したりするという過酷な経験も多数記されている。 著者も、時には盗みをやったり、北朝鮮では公には禁じられている商売を行ったりして必死で生きていく。そうした生活の中で、無慈悲に人民の食料を奪ったり、賄賂を要求したり、売り物を没収したりする北朝鮮の軍人、役人がいる一方で、生きるために必要な畑を耕すために隣人で助け合う様子、情に熱い人々の様子が多くの描かれていることにも注目したい(実際、著者は知り合いの軍人の助けで脱北をしている)。 10代で祖国に渡った著者は、北朝鮮の思想には染まらず一貫して北朝鮮を批判的な視点で描いており、その息苦しさ、閉塞感が迫ってくるような気すらする。 しかし、その地でなんとしても生きようと必死で生活している人々のへの視線はどこか温かい。彼の国に凄惨な現実、残酷な現実があるのは事実だ。しかし、そんな現実の中も温かい血の通った人々が、住んでいる。 そうしたことを深く刻みつけれくれた1冊だった。
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