百姓入門記 の商品レビュー
(01) 武蔵野のイメージが冒頭に示される.国木田独歩や大岡昇平が描いた武蔵野が武蔵野近代とすれば,ここには武蔵野の現代が見えている.さまざまな事情もあって荒野ともとれるような風景となって現れた武蔵野に著者は定着しようと試みる.その試行の方法が百姓であり,畑作でもあった.著者の出...
(01) 武蔵野のイメージが冒頭に示される.国木田独歩や大岡昇平が描いた武蔵野が武蔵野近代とすれば,ここには武蔵野の現代が見えている.さまざまな事情もあって荒野ともとれるような風景となって現れた武蔵野に著者は定着しようと試みる.その試行の方法が百姓であり,畑作でもあった.著者の出身地でもある信州の原風景とそこでの原体験が語られ,終盤には,再び信州へとむかい,そこに出会った総合学習を体験する次世代の子どもたちとの交流が記録されている. 道具や品種,害虫も含めた動物,好古的な遺物など途中の話題はいろんな方面へと向かうが,百姓という方法(*02)をとることで生まれるコミュニケーションや観察が,もともと多面性や多様性とともにあることが示されているようでもある. (02) 著者の過労や病気が土に向かうきっかけとなっている事情も考えさせられる.身体の衰弱に,経験とアイデアが共存し,畑に総合されているという様相は果たして特殊なものかどうか,百姓の歴史をさかのぼって考えてみる必要もある.エッセイとも帯にあるが,記録的な散文ともとられ,ドライな文体が百姓の方法とマッチしてもいる.
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