未知との遭遇 完全版 の商品レビュー
インターネット空間にあふれる広大な情報を前にして立ちすくんでしまう現代の若者たちの状況について考察することから議論を開始し、そうした現代を生きていくための作法について語っている本です。 ゼロ年代のサブカルチャー批評において浮上してきたテーマを巧みに切り分けつつ、その中心にある問...
インターネット空間にあふれる広大な情報を前にして立ちすくんでしまう現代の若者たちの状況について考察することから議論を開始し、そうした現代を生きていくための作法について語っている本です。 ゼロ年代のサブカルチャー批評において浮上してきたテーマを巧みに切り分けつつ、その中心にある問題をとりだしてくる手法は見事だと感じました。直接言及されているわけではありませんが、宇野常寛の『ゼロ年代の想像力』(ハヤカワ文庫)に代表される「セカイ系」批判を射程に入れつつ、セカイ系批判こそがセカイ系にほかならないと指摘されているところは、個人的には妥当なものだと考えています。 ただ残念なのは、とくに「二日目」における偶然性や可能世界論をめぐる議論がじゅうぶんにこなれておらず、著者が本書においてとりくんでいる中心的なテーマにこれらの議論がどのように寄与するのかということが見えにくくなっていることです。わたくしの見るところでは、実在論/反実在論の対立と、論理的/認知的な対立が混同されてしまっていることが原因のように思われます。そのため、「三日目」に著者が提唱する「最強の運命論」が実質的にはなにを意味しているのか明瞭になっていないように感じてしまいました。 また、こういった問題をあつかうのであれば、小森健太郎のミステリ批評に話をつなげていくことが適切だと思われるのですが、そのような方向に議論が進められていないこともすこし不思議に思えます。可能世界論についても触れられており、その文脈で歌野晶午のミステリ作品にも言及されているのですから、著者の視界に入っていないはずはないと思われるのですが。
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