土の記(上) の商品レビュー
重い内容ですが、妄想と連想、断片的な記憶など、あちこちに飛びながら話が少しずつ進み輪郭を帯びていくのが幻想的です。人間の営みの歴史の積み重ねに想いを馳せてしまいます。
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今まで福澤彰之シリーズで、漁師の生活や仏教といった変わった題材を描いてきたが、本作では米つくりの農家という日本人にとってある意味普遍的な日常生活を描く。都会に住む自分のような者にとっては異質だが、日本の歴史を通覧すると普遍的であると言え、衆目の目を惹きやすい変わった題材から普通の...
今まで福澤彰之シリーズで、漁師の生活や仏教といった変わった題材を描いてきたが、本作では米つくりの農家という日本人にとってある意味普遍的な日常生活を描く。都会に住む自分のような者にとっては異質だが、日本の歴史を通覧すると普遍的であると言え、衆目の目を惹きやすい変わった題材から普通の題材を描く事にシフトしているような気さえする。普通の題材をいかに深く描くか、という事に挑戦しているのか?とも思う。土と共に生き、土に還る。タイトルにはそんな思いが込められているような気がする。ただ単に伊佐夫が土のサンプル収集に凝っていたから、というだけではないだろう。その伊佐夫も、16年前に交通事故に遭い植物状態になって、半年前に死んだ妻の昭代が生前他に男を作って不貞をはたらいていたのではないかという疑惑を払拭できず、うじうじと考え昭代という死者にとらわれている。昭代の妹久代と結婚していればまた違う道を歩んでいたのかもね、とも思う。下巻になって伊佐夫のボケが進み目が開いていても現実と夢の境がなくなる事、記憶の中の風景と現実が混在していく描写には恐怖を覚えた。詳細→ https://takeshi3017.chu.jp/file10/naiyou6711.html
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山村の70代の男が、交通事故で16年意識が戻らないまま死んだ妻が、不貞を働いていたようだということを考えながら、田舎の農作業に取り掛かる、そういう波風の少ないストーリーなのだが惹き込まれる。
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奈良県の奥、吉野の入り口の山林地主。茶畑を育てる老人の物語。何が面白いのか、何も起こらない。これが面白い。
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奈良の田舎のお爺さんの何気ない日常も高村薫の手にかかるとサスペンスに。筆力なのか文体なのか、それとも下巻から疾風怒濤のサスペンスになるのか?
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待望の新作にして、現代小説の先端といってもいいのではないか。 奈良県宇陀盆地の漆河原集落で暮らす72歳の上谷伊佐夫。シャープ葛城工場を退職後、妻の実家にて農業をして暮らすようになる。妻の不貞と謎の死、村人への違和感を募らせる日々。伊佐夫の暮らしの果ては…。 淡々と描かれている...
待望の新作にして、現代小説の先端といってもいいのではないか。 奈良県宇陀盆地の漆河原集落で暮らす72歳の上谷伊佐夫。シャープ葛城工場を退職後、妻の実家にて農業をして暮らすようになる。妻の不貞と謎の死、村人への違和感を募らせる日々。伊佐夫の暮らしの果ては…。 淡々と描かれているけれども、これは髙村薫にしか書けないと思う。下巻はさらに期待。
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初、高村薫さん。 70過ぎの老人が主人公。今は亡き妻に関する回想と、日々の生活が入り混じる。淡々とした毎日のようで、確実に時は流れていて、娘は渡米し、知人は亡くなり、稲は育っていく。これが、農家というものなんだろうな。文体に慣れたのか、後半は読みやすかった。下巻では何か展開がある...
初、高村薫さん。 70過ぎの老人が主人公。今は亡き妻に関する回想と、日々の生活が入り混じる。淡々とした毎日のようで、確実に時は流れていて、娘は渡米し、知人は亡くなり、稲は育っていく。これが、農家というものなんだろうな。文体に慣れたのか、後半は読みやすかった。下巻では何か展開があるのだろうか。
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16年前に交通事故で植物人間になってしまった妻が亡くなって,介護からは楽になったものの,いろいろな思いや日々の農作などに囚われた伊左夫.関係性をうまく築けなかった娘や孫.奈良の田舎の閉鎖社会の息苦しさ,そして何より妻の事故の真相.頭の中で物ごとや想いがあっちこっちするのが,自分の...
16年前に交通事故で植物人間になってしまった妻が亡くなって,介護からは楽になったものの,いろいろな思いや日々の農作などに囚われた伊左夫.関係性をうまく築けなかった娘や孫.奈良の田舎の閉鎖社会の息苦しさ,そして何より妻の事故の真相.頭の中で物ごとや想いがあっちこっちするのが,自分のことと比べてよくわかる. そして稲作などの農作物や生き物に対する愛があふれている.
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山奥の寒村で自分で食うためだけの米を作る老人の独り言。土へと向かう単純作業ゆえか、どうでもいいような村の世間話から、亡くなった妻や疎遠な娘との整理のつかないわだかまりが、脈絡もなくふつふつと現れては消えていく。山奥の営々と繰り返される自然の圧に溶け込む老人の意識の滞留を、著者のね...
山奥の寒村で自分で食うためだけの米を作る老人の独り言。土へと向かう単純作業ゆえか、どうでもいいような村の世間話から、亡くなった妻や疎遠な娘との整理のつかないわだかまりが、脈絡もなくふつふつと現れては消えていく。山奥の営々と繰り返される自然の圧に溶け込む老人の意識の滞留を、著者のねちっこいまでの活字量で再現していく試み。著者のそういうところが好きな人にはたまらないが、好きではない人は何が言いたいの? ってなるかも。
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
主人公の回想によって話は進んでいくのだが、冷めきった夫婦関係が暗示され、今は亡き妻の行動に対する不信感も露わなのだが、いっぽうで生前の妻の日常のしぐさや会話が甦ってくるのだから、まんざら嫌悪しているわけでもなさそうである。夫婦のうちに潜む謎を抱えながら下巻へと続く。
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