汽車旅放浪記 の商品レビュー
著者とは二回り近く年長の宮脇俊三を鉄道ファンとしての祖型と言い切ってしまう筆致が良い。宮脇氏が自分史も含め歴史と鉄道を結び付けた。著者は文学と鉄道を絡めて、素晴らしい鉄道紀行文の書き手だと思った。紀行文として絵になる路線が確かにある。既読『いきどまり鉄道の旅』、本書、読んでいる『...
著者とは二回り近く年長の宮脇俊三を鉄道ファンとしての祖型と言い切ってしまう筆致が良い。宮脇氏が自分史も含め歴史と鉄道を結び付けた。著者は文学と鉄道を絡めて、素晴らしい鉄道紀行文の書き手だと思った。紀行文として絵になる路線が確かにある。既読『いきどまり鉄道の旅』、本書、読んでいる『おんなひとりの鉄道旅』では共通する路線が多いのもそのためだろう。松本清張、太宰治、夏目漱石にまつわる記述も良かった。
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文学の香る路線を、関川夏央さんが追体験の旅をし、考察を加えました!私の好きな尾道も、そして木次線亀嵩もエントリーしています。
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関川夏央氏もテツであつた! さういへば原武史氏や酒井順子氏らと汽車旅の本を出してゐましたなあ。迂闊な事でした。 書名から、著者があちこちとテツ旅をする一冊かと思ふところですが、さにあらず。 文学史に名を残す作家たちが、その作品中でいかに鉄道を扱つたか、いかなる汽車旅をしたのかを探...
関川夏央氏もテツであつた! さういへば原武史氏や酒井順子氏らと汽車旅の本を出してゐましたなあ。迂闊な事でした。 書名から、著者があちこちとテツ旅をする一冊かと思ふところですが、さにあらず。 文学史に名を残す作家たちが、その作品中でいかに鉄道を扱つたか、いかなる汽車旅をしたのかを探り、その旅を追体験してみやうといふ試みですかな。 登場する主な作家は、以下の通り。 高村光太郎・川端康成・坂口安吾・志賀直哉・上林暁・岩野泡鳴・葛西善蔵・中野重治・山本周五郎・松本清張・林芙美子・太宰治・宮沢賢治・宮脇俊三・夏目漱石・内田百閒。 特に宮脇俊三に関しては、一章丸ごと充てるなどして、かなりの熱の入れやうです。『時刻表昭和史』における、今泉駅での終戦体験について熱く語る。確かに名著の誉れ高い同著の中でも、もつとも感動を呼ぶ場面でした。堂々たる「宮脇俊三論」となつてゐます。 漱石は汽車嫌ひだつたと繰り返し述べてゐます。本人もさういふ旨の発言をしてゐるさうです。しかし作品中にはやたらと汽車が登場するのです。描写も的確で、さすがに良く観察してゐると感心するのです。 漱石は猫嫌ひか否かとの論争もありますが、同時に鉄道嫌ひかどうかも専門家の間で論じていただきたい。『坊っちゃん』や『三四郎』などにおいては特に、汽車が重要な役割を果たします。さうさう、『それから』のラストシーンでも、代助が電車に乗りながら周囲が真赤に染まるといふ印象的な場面がありました。内心、実は鉄道好きではないのかと思はせるのです。 書名から、テツ向けの内容かと勘違ひする向きがあるかも知れませんが、本書は鉄道情報を提供する書物ではありません。鉄道をダシにして文学を語るエッセイといふ感じでせうか。まことに愉快な一冊であります。ただし文学趣味の無い人が読むとツマラナイかも知れません。 (ところで、JR西の路線「三江線」は、「さんごうせん」と態々フリガナを振つてゐますが、これは「さんこうせん」でせうね。江津や江川の連想から「さんごうせん」だと思つたのでせうか) http://genjigawa.blog.fc2.com/blog-entry-708.html
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ローカル線に乗り、この国の近代と文学を語るエッセイ。 厳しい坂を上る路線の設定の難しさを語る箇所で、限界勾配などキッチリと書かれている。ルポとしての文章だなと思ったが、若しかしたら関川さん、こういう話好きなのかもしれない。 鉄道の技術トリビアも作家の一人一人の陰を追う旅の文章もた...
ローカル線に乗り、この国の近代と文学を語るエッセイ。 厳しい坂を上る路線の設定の難しさを語る箇所で、限界勾配などキッチリと書かれている。ルポとしての文章だなと思ったが、若しかしたら関川さん、こういう話好きなのかもしれない。 鉄道の技術トリビアも作家の一人一人の陰を追う旅の文章もたっぷり楽しめた。しかし、トンネルマニアで赤錆びた車止めが好きなんだ、という告白に一寸驚く。関川さんにそんな嗜好が…。 「自分のことは棚に上げていうのだが、鉄道マニアにはどこか気持ちが悪いところがある」この一文には、声には出さないが、笑ってしまった。 林芙美子の母娘二代に渡る放浪については、これは読まなきゃなという気になった。 宮沢賢治が妹への挽歌を歌いに旅をしたオホーツク。 (引用) 年老いた白い輓馬に荷を引かせた男は「そっちだろう」と鉄道線路の行く方をしめした。彼は無愛想で親切であった。通り過ぎるその男の目に、樺太の白い雲が映っている。 関川さんの文章には、スッと風景が立つ処がある。賢治の詩も読み返さねば。 漱石の「三四郎」の里見美彌子、落ち着いていて、心が乱暴なヒロイン。このモデルについては、関川さんが原作の漫画「坊ちゃんの時代」にもあったな。 百閒について、「威張りん坊と泣き虫の振幅の中にある。天真爛漫と脆い精神の混合物であったともいえる。」 短いが、評論として一級の文だと思う。 寂しい一人旅を冷たく見ている自分がいる。僕はテツではないが、関川さんの文章が愛しいものと思っている。近いうちに『深夜急行「昭和」行』も読もうと思う。
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文学の背景と書き手の経験がかわるがわる展開していく鉄道エッセイ。うまいので読み応えあるしおもしろかったけど、もっと鉄な人が読めばさらに奥深いんでしょうね。時刻表的な世界などは。しかし鉄道オタクって昔からいたんだねえ。。。
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いかにも旅行記的な題がついているけれども、内容は文学エッセーといってよいと思う。だから鉄ちゃん向けの本と思って読んでも面白くないと思う。純文学と鉄道が好きな人にとっては最高の内容だと思う。
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『坊っちゃん』『雪国』『点と線』……。近代文学の舞台となった路線に乗り、名シーンを追体験する。鉄道と文学の魅惑の関係をさぐる、時間旅行エッセイ。
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