日本の聖と賤 中世篇 の商品レビュー
小説家の野間宏と歴史学者の沖浦和光の二人の対談です。中世の日本文化の中で「賤民」が果たしてきた役割に光があてられています。 学校教育の現場や歴史学では、賤民や部落の歴史に触れることは意識的に避けられてきました。部落問題に取り組んできたのは進歩派にぞくする研究者たちですが、彼らは...
小説家の野間宏と歴史学者の沖浦和光の二人の対談です。中世の日本文化の中で「賤民」が果たしてきた役割に光があてられています。 学校教育の現場や歴史学では、賤民や部落の歴史に触れることは意識的に避けられてきました。部落問題に取り組んできたのは進歩派にぞくする研究者たちですが、彼らはそれを歴史の陰湿な負の遺産としてとらえる視点からの検討に終始していたことはいなめません。とくにマルクス主義の立場においては、部落問題は封建制の遺物として一方的に切り捨て、同情的に支援するという立場を出ることはありませんでした。1970年代に入って民衆史の見なおしが進められることで、それまでの一面的な賤民理解がようやくあらためられることになります。 本書では、宗教と芸能における賤民の寄与がくわしく論じられています。宗教については、天皇制と賤民制を「聖」と「賤」の対立としてとらえ、両者が相互に形成されていったプロセスが論じられています。そのうえで、国家宗教に対する反逆という意義を帯びて歴史に登場した鎌倉新仏教、とりわけ「悪人正機」を説く浄土真宗や、各地を巡って下層民の世界に入っていった時宗が、諸国を渡り歩く職業技術者集団などに広く伝播したことなどが語られます。また芸能については、猿楽、能楽、説教節についての言及もおこなわれています。 文化記号論などの試みは、社会意識や民俗慣習の奥底にひそむあいまいで両義的な領域のダイナミズムをとらえることができないという野間の発言がありますが、重要な示唆を含んでいるように感じました。
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対談形式で書いてあるので読みやすいのと、様々な事を語っているので旅の手引きとなる。このシリーズは読み返す事が多い。
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