薔薇の奇跡 の商品レビュー
すべてを忘れてただ「私」を信じようとする試み。ルソーに端を発しジイドへと引き継がれた私小説の形式はここでジュネに託された。 不思議な小説だ。穏やかな湖面に時々大きな気泡がポコンと湧き出るように、永く続く語りの最中に突然鮮明な映像が強く喚起される。そんな場面がいくつかある。例えば...
すべてを忘れてただ「私」を信じようとする試み。ルソーに端を発しジイドへと引き継がれた私小説の形式はここでジュネに託された。 不思議な小説だ。穏やかな湖面に時々大きな気泡がポコンと湧き出るように、永く続く語りの最中に突然鮮明な映像が強く喚起される。そんな場面がいくつかある。例えば、中庭で起こったちょっとしたいざこざを遠巻きにただ眺めているビュルカン、冷たいバールの感触、川べりで裸にされた四百人の少年囚たち、などだ。たえず交錯するメトレー少年院の頃の記憶と監獄の描写。嗚呼、ただただ美しい。 ちなみにジュネが拝借したのはあくまで私小説の「形式」であって、私小説そのものではない。ここでは凶悪犯を収容するフォントヴロー刑務所での獄中生活が濃密な幻想性を伴う筆致で描かれているが、ジュネ自身にフォントヴロー刑務所に収監された経験はない。
Posted by
入手困難だった本書が新訳で復刊。調べてみると、堀口大學の旧訳からこっち、復刊や新訳が無かったようだ。ジャン・ジュネの小説は割と入手が容易なものが多いので意外だった。 現在、主人公が置かれている刑務所と、思い出の中の少年院がシームレスに繋がり合って、独特の作品世界を作り上げている。...
入手困難だった本書が新訳で復刊。調べてみると、堀口大學の旧訳からこっち、復刊や新訳が無かったようだ。ジャン・ジュネの小説は割と入手が容易なものが多いので意外だった。 現在、主人公が置かれている刑務所と、思い出の中の少年院がシームレスに繋がり合って、独特の作品世界を作り上げている。本書もある種、ゴシック的な側面があるとも思う。俗っぽさと幻想味が同居している。しかし、その『俗っぽさ』にフォーカスしてしまうと、ツッコミ待ちだとしか思えない内容ではあるw
Posted by
- 1