トランペット の商品レビュー
著名なジャズ・トランペッターのジョス・ムーディが死んだ。しかし50年添い遂げた妻ミリーが寡婦となった悲しみに静かに浸ることを、世間は許そうとしない。まるで、死んだ男の体がもっていた特徴の方が、彼の音楽や愛や人生そのものよりも重要な事実であるかのようにーー。 身体上の性別を絶対視す...
著名なジャズ・トランペッターのジョス・ムーディが死んだ。しかし50年添い遂げた妻ミリーが寡婦となった悲しみに静かに浸ることを、世間は許そうとしない。まるで、死んだ男の体がもっていた特徴の方が、彼の音楽や愛や人生そのものよりも重要な事実であるかのようにーー。 身体上の性別を絶対視する社会の中で、それと違う生き方をする人たちのことを、周囲の人びとを騙し欺く犯罪者であるかのように語るストーリーがいかに滑稽で的外れか、1998年に書かれたこの物語は、静かにゆっくりと明らかにしていく。 多くの語り手たちの中には、ショックのあまりに死者への敬意を忘れてしまう人びともいてミリーを苦しませるが、なかでも養子である息子のコールマンがハゲタカジャーナリストに協力してしまうさまを読むのは辛い。養子であること、黒人であること、著名な父の下で何もなせないという屈託を抱えていた彼が、着衣と秘密を情け容赦なくはぎ取られた父の体をいきなり葬儀屋に見せられ、裏切られたような気持ちを覚えてしまうのも理解できなくはない。 それでもこれは辛いだけの物語ではない。ジョスの死後に初めて出会ったり記憶を思い起こす人びとの語りは、単一の側面で人間を切り取り語るようなシングルストーリーをくつがえす豊かさを示す。コールマンもまた、ジョスの母親に出会うことを通して、自分の屈託を大きな流れの中に置き直すことを学んでいく。 小説の最後、ジョスが息子に残した遺言には、場所を変え名前を変えながら旅を続けてきた人々の記憶が響いている。彼らがどんなストーリーを語ろうとも、たとえそれが信じられず未来に残されないとしても、人びとは物語を託して去っていくのだ。 ジョスのモデルとなったトランぺッターは実際に存在していて1989年に亡くなったという。
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私にとっては、せつないせつないラヴストーリーだった。 魅力的で音楽的な天才で、周囲には理解されないだろう人生を生き抜いたジョス。彼をとことん愛したミリセント。その2人の甘い生活として閉じておいてほしいとも願わずにはいられなかった。 どんなマイノリティだろうと、愛し合ってしまえば互...
私にとっては、せつないせつないラヴストーリーだった。 魅力的で音楽的な天才で、周囲には理解されないだろう人生を生き抜いたジョス。彼をとことん愛したミリセント。その2人の甘い生活として閉じておいてほしいとも願わずにはいられなかった。 どんなマイノリティだろうと、愛し合ってしまえば互いにとって特別な人であることに違いはない。 愛について、家族について…あれこれ思うと胸がしめつけられる。
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