感情化する社会 の商品レビュー
久しぶりに著者の批評を読んだ。話題にされるのはネット上、SNSの承認欲求、俯瞰ポジショニング、共感レースについてが主だが、なろう小説や大統領の演説への反応といったあらゆる文芸ネタを横断して共通テーマを見出す手法は相変わらず錬金術じみて面白い。 しかし全体的に悲観的だった。ポストモ...
久しぶりに著者の批評を読んだ。話題にされるのはネット上、SNSの承認欲求、俯瞰ポジショニング、共感レースについてが主だが、なろう小説や大統領の演説への反応といったあらゆる文芸ネタを横断して共通テーマを見出す手法は相変わらず錬金術じみて面白い。 しかし全体的に悲観的だった。ポストモダニスト故に自ら書いてきた批評に縛られている感。AIの発達への希望的観測意外は読んでぼんやりと虚しさが残った。 4年前に書かれた本なのでもう言説が古くなりはじめている。それだけ今は先が予測できない社会だということ。 作品がインスタント化し続けているということに関しては、SNS二次創作界隈にいると良くも悪くも顕著に感じるので、「感情」の外に立つ客観的な機能まで失われるべきではないというのには同意。 文芸から描写が消えゆくのは、ウェブ上で「言文一致」が再び起こっているからだという指摘は新鮮だった。集合知の一人称「私」=私の語りになってしまう。主導者がweb企業だけでは済まない。
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初めて大塚英志の最近の文章をウェブ以外で読んだのだが、随分文章が変化していてびっくりした。無駄のないスリムな文章になっていると同時に、昔の文章にあった意味不明な遠回り感がなくなり、とげとげしく、やや余裕がない文章に見える。それはまさに時代の反映のようで、読んでいて少し悲しくなる。...
初めて大塚英志の最近の文章をウェブ以外で読んだのだが、随分文章が変化していてびっくりした。無駄のないスリムな文章になっていると同時に、昔の文章にあった意味不明な遠回り感がなくなり、とげとげしく、やや余裕がない文章に見える。それはまさに時代の反映のようで、読んでいて少し悲しくなる。江藤淳への言及も「もう書いてもいいと思うが」という形で江藤淳が、大塚英志の江藤とその母について書いた文章を読んで「泣いた、会いたい」と連絡してきたとのことをカミングアウトしているが、これは時の流れではなく何か締まりとしてあったものが失われているように見える。江藤が自死した直後の大塚英志の文章は、このことを書く未来は永久に来ないかのように徹底的に自戒しているように見えるから。 しかしながら「感情化」というキーワードをもとに、天皇のお気持ち表明会見、AIからスクールカースト小説、最終的に村上春樹へと連なる一連の文芸評論は、ある種の天才的なひらめきと強引に事象をつなぎあげる力を未だ感じるとともに、こんなものまで相変わらずチェックしてるんだ!?という率直な感動がある。特に村上春樹の多崎つくる論は、私の感じていたこの小説への違和がどんどん視界が晴れていくようにクリアになってとても面白かった。 あとがきを読むと、ほぼほぼ絶望的ですね。最近は死んだ人の本ばかりを読んでしまうので、未だ健在で自分と同時代を生きながら文章を書いており、かつ心底愛する批評家がいるのは大変嬉しいのだけれど、同時に彼に「もう批評は不可能なのではないか」と言われてしまうと、やはりな…という気持ちを隠しきれない。 あと、女性一人称の言文一致は、男性が客体という「神」として存在し、その男たちが観察者の視点を女性の言文一致に対して特権的に持っていった、男に管理された文体であるという指摘は目から鱗だった。今に至る女ことばの問題、そして私たちが取り戻した(のか?)私語りの問題はおそらくこの地点に遡って検討しなければならないはずなので。
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天皇のお気持ちに、正直自分は心を動かされた。しかし動かされたのが個人の心レベルにとどまらず政治にまで達すると確かに話は簡単ではない。ましてや「感情天皇制論」なる論理で問題を煽ってくると、なんとなく天皇機関説や226事件を思い出す。退位問題をあまく見過ぎていた。
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大塚英志さんの『感情化する社会』を読んだ。post-truthの時代情況を読み解く上でも、人々の交感がいかなる力学で行われているのかを知る意味で有効な一冊。AIによって編集者の審美眼にメスが入るという指摘は、とりわけ書籍の編集者には当てはまるかも。 「感情化」とはあらゆる人々の...
大塚英志さんの『感情化する社会』を読んだ。post-truthの時代情況を読み解く上でも、人々の交感がいかなる力学で行われているのかを知る意味で有効な一冊。AIによって編集者の審美眼にメスが入るという指摘は、とりわけ書籍の編集者には当てはまるかも。 「感情化」とはあらゆる人々の自己表出が「感情」という形で外化することを互いに欲求しあうことを意味する。理性や合理でなく、感情の交換が社会を動かす唯一のエンジンとなり、何よりも人は「感情」以外のコミュニ
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- ネタバレ
※このレビューにはネタバレを含みます
感情化と文学以降と。この人の「ローマの終わり」論は説得力がある。新しいキリスト教はまだ見えないけれど。それでも批評で対峙するのが気概。 自己啓発の話とか、りんなのこととか、読みに説得力がある。
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社会編と文学編の2部構成で論点盛りだくさん。まず天皇の「お気持ち」から始めて、理性や合理ではなく「感情」による「共感」が社会システムとして機能する事態=「感情化」を概観する。そして、「感情」の外に立つ機能=「批評」の必要性を再確認。続けて、Web上の「自己表出」を無償労働の問題と...
社会編と文学編の2部構成で論点盛りだくさん。まず天皇の「お気持ち」から始めて、理性や合理ではなく「感情」による「共感」が社会システムとして機能する事態=「感情化」を概観する。そして、「感情」の外に立つ機能=「批評」の必要性を再確認。続けて、Web上の「自己表出」を無償労働の問題として批評する件まで一気に読める。多くの読者が何度も膝を打つだろう現代社会論。 文学編は若干難易度が上がる。大江健三郎、中上健次、村上春樹、朝井リョウらの作品と「文豪メッセンジャー」「女子高生AIりんな」等の最新技術を行き来しながら「機能性文学」の功罪を析出する。その先に、AIによる近代的個人の消滅まで予言し、しかしそれでも「理性」=「批評」で対峙するしかないと宣言して終わる。 とりわけ、村上春樹『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』を歴史修正主義と断罪する件は必読。
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