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動く倫理学を展開する の商品レビュー

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2018/07/22

『複雑系の倫理学』(2000年、ミネルヴァ書房)のほか、3編の論考を収録しています。 著者は、個人をそれ以上分解できない最後の単位とみなす「方法論的個人主義」も、社会を一種の実在としてあつかう「方法論的社会主義」も、ともに人間と社会のありようを正しくとらえることに成功していない...

『複雑系の倫理学』(2000年、ミネルヴァ書房)のほか、3編の論考を収録しています。 著者は、個人をそれ以上分解できない最後の単位とみなす「方法論的個人主義」も、社会を一種の実在としてあつかう「方法論的社会主義」も、ともに人間と社会のありようを正しくとらえることに成功していないと批判します。そのうえで、個人は社会のなかにあり、社会は個人のつながりによって形成されているという「関係体」の観点から、人間社会の倫理についての考察を展開しています。 こうした著者の思想は、和辻哲郎の「間柄の倫理学」の視座に一部かさなるところがあります。ただし著者は、和辻の「間柄の倫理学」は、けっきょくのところ個人と社会のダイナミックな関係を把握することに成功しておらず、いまだ「静態倫理学」の立場にとどまっていたといいます。そこで著者は、システム論や複雑系に関する比較的新しい知見を参照することで、「創発」を組み込んだ「動態倫理学」の構想へと議論をすすめていきます。さらに、ニーチェの「超人」思想に著者の考える「創造倫理」の可能性を見いだそうとしています。 動態倫理学というスローガンにはある程度共感できるところもありますが、和辻倫理学がはたして著者のいうような「静態倫理学」の立場なのかという点については、やや疑問があります。また、システム論と規範的倫理学との関係については、ハーバーマストルーマンの論争を見れば明らかなように、考えなければならない数多くの問題が存在しているのですが、本書ではそれらの問題についての考慮はなされておらず、いまだスローガンの提示にとどまっているような印象を受けます。

Posted byブクログ