旅愁(下) の商品レビュー
大分の文学という触れ込みであったが、大分は父親の墓がありそこにわずか数時間いるだけ、という場面設定であった。多くはパリあるいは東京あるいは山小屋または母親の東北のふるさとであった。したがって、海外旅行記という方がいいのかもしれない。それにしては矢代と千鶴子が結婚しないままで話が終...
大分の文学という触れ込みであったが、大分は父親の墓がありそこにわずか数時間いるだけ、という場面設定であった。多くはパリあるいは東京あるいは山小屋または母親の東北のふるさとであった。したがって、海外旅行記という方がいいのかもしれない。それにしては矢代と千鶴子が結婚しないままで話が終わっているが、恋愛小説というジャンルもうかがえる。
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横光利一の後年の作品「旅愁」、岩波文庫版上下巻の下巻。 第3から5篇と、後年に書かれた続編「梅瓶」が収録されています。 ヨーロッパがメイン舞台である第1篇、第2篇とは異なり、第3篇で帰国し、以降の舞台は日本国内となります。 欧州の社会情勢と日本の実情の対比、グロバリデーションや...
横光利一の後年の作品「旅愁」、岩波文庫版上下巻の下巻。 第3から5篇と、後年に書かれた続編「梅瓶」が収録されています。 ヨーロッパがメイン舞台である第1篇、第2篇とは異なり、第3篇で帰国し、以降の舞台は日本国内となります。 欧州の社会情勢と日本の実情の対比、グロバリデーションやアイデンティティーに関する議論がメインだった上巻と異なり、古神道を体現する矢代とカソリックの千鶴子の信仰の違いから、二人の間に溝を感じたり、矢代の父が死に、自分のルーツを辿る展開が主となります。 相変わらず物語としての面白みというものはほぼなく、上巻はまだ近代日本の若者の思想を垣間見る面白さがあったのですが、下巻は、がんばって読んだのですが頭に何も残りませんでした。 がんばって読むようなものでもないので、個人的にはおすすめできないです。 下巻も登場人物は上巻に引き続きます。 ただ、上巻で矢代と熱い議論を交わしていた久慈が下巻ではほとんど登場しないのが残念ですね。 また、上巻の後半で(グダグダになりつつも)愛を確かめた矢代と千鶴子は、本作で籍を同じくすることを決めるのですが、やれ宗教観の違いだの、親の印象がどうだので話が全く具体的に進まず、600ページもあるのですが"変化"みたいなものはないように思います。 日本的観念として矢代は自分を古神道を信仰していると述べるのですが、にもかかわらずキリストの教えを受け入れられないと述べており、矛盾を感じました。 キリストの教えもニュートラルに捉えられればいいのにと思いましたが、ただ、日本人のナショナリズムを重んじてきた矢代的には、欧米の文化ということで忌避感を感じたのかなと思いました。 そういう意味では、矛盾も含めリアルな作品かと思います。 なお、旅愁は最後まで書かれないまま作者が死に、未完のまま終了となります。 第5篇までで一時断筆となり、戦後「梅瓶」というタイトルで少しだけ続きが書かれますが、ぷっつりとした終わり方となります。 とはいえ、そもそもストーリーらしいストーリもなく、何をもって終幕とするか難しい内容なので、特に先が読みたかったという感じにもならなかったです。 旅愁は戦後アメリカのメディア統制下に出版されたため、GHQの検閲を受けました。 欧米批判していると捉えられる箇所については容赦なく書き換えられたそうで、新潮文庫版などは検閲後の文で発売しているそうです。 岩波文庫版は検閲前の文章で発刊していて、巻末に検閲された対象箇所と書き換え後の文章がまとめられており、横光利一の文章が読みたかったので、これが非常にありがたかったです。 また、巻末の検閲文章も、こういうことが文学作品に対し行われていたということが興味深く感じました。 大した変更ではないものもありますが、結構長い文章がガラリと変わる部分もあり、戦後版で読んだらまた感想が違うと思います。 感想としては、とにかく長かったです。 上下巻合わせて20日ほどかけて読みましたが、読み終えたときは妙な達成感を感じました。
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下巻。 未完に終わった長編だけに、果たしてこの壮大な物語に、いったいどういうオチがつく予定だったのか、気にせずにはいられない。完結していたら、どれぐらいの長さになっていたんだろう……。
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