なんでもないなつの日 の商品レビュー
優れた児童文学や幻想的な怪奇小説で知られる、イギリスの小説家で詩人のウォルター・デ・ラ・メアの詩『Summer Evening』から、カロリーナ・ラベイが発想を広げて、ある農家の夏の夕暮れ時に於ける、ささやかな出来事を描いたことで、タイトルの持つ、日常の幸せを実感できる作品。 ...
優れた児童文学や幻想的な怪奇小説で知られる、イギリスの小説家で詩人のウォルター・デ・ラ・メアの詩『Summer Evening』から、カロリーナ・ラベイが発想を広げて、ある農家の夏の夕暮れ時に於ける、ささやかな出来事を描いたことで、タイトルの持つ、日常の幸せを実感できる作品。 発色を抑えた優しい色合いで描かれた、農場を取り巻く自然の風景は、なんとも涼しげで、ほっとさせられる穏やかな時間を感じられ、それはファンシーな雰囲気を持たせた、農家の家族や動物たちの描写に見られる親しみやすさも同様でありながら、よくよく見ると、色がはみ出している部分もあったりと、遠目に見るときっちり描かれているようで、実はそうではないラフな雰囲気に感じられた現実味との組み合わせが、一種独特な癒しの空間を創り出している。 デ・ラ・メアの詩の始まりの言葉である、『うすちゃのねこが 農家のパパのいすのそば』から感じられた、子どもの視点で書かれた素朴で牧歌的な内容は、タイトル通りの、『なんでもない』ことではあるものの、子どもが普段どういったところを見ているのかという愛らしさと、人間と動物との普段からの気安い間柄も窺える、目の付け所の良さを感じられながら、その詩に合わせて親子四人が、外のテーブルで摘みたての果物を載せたケーキを食べる場面を描いた、ラベイの絵も印象的。 その後の『ひざにすりより みゃあお、とおねだり』から、緩やかに絵物語が始まり、パパの膝にすり寄っていた猫は、ふと振り向いた拍子にネズミと目が合ってしまい、早速追いかけるが、そうした何気ない場面に於ける一つ一つの過程を、ラベイは細かく区切って描くことで、それらの瞬間瞬間に起こること一つ一つにも目が離せない素晴らしさがあることを教えてくれると共に、ただ同じ動物の行動を、ずっと見ているのも楽しそうだなと思わせた、そんな有意義で贅沢な時間の過ごし方には、心のゆとりを実感させられる。 そんな私の気持ちと同調するように、二人の子ども(兄と妹)が、ネズミを追いかける猫の後をついて行ってみると、犬小屋の前を通るネズミに気付いた、じいさんいぬも猫の後についてネズミを追いかける光景に出会い、更にネズミが豚小屋に入っていくと、それに気付いた子豚がじいさんいぬの後について行き、豚小屋を出た先にはたくさんのガチョウがいてと、農場にいる様々な動物を巻き込んで展開される、ちょっとしたドタバタ劇も、ラベイの描く子どもたちの見守る前では、殺伐とした感じというよりも、動物たちが一緒に遊んでいるように見えてしまう、そんな和やかで微笑ましい光景は、夏の夕方によく似合う。 そして、気が付いたら本来の目的は忘れてしまったように、人も犬も猫もガチョウも、皆がふと遠くの風景を見つめる場面へと変わり、その先には草を食む牛たちの姿もあるものの、彼らの光景も含めて、一面に広がる大草原に吹き渡った、柔らかく涼しげな風も肌に感じながら、ゆったりと日が暮れていく、そんな日常的に繰り返されるものの素晴らしさは、時にこうしてじっくりと眺めることによって、改めて実感されるのではないかと思われながら、そうした素晴らしさが変わらずに続いていくことの素晴らしさも感じられた、そうした思いが、きっと平和への願いに繋がっていくのだろう。 今年の猛暑や不安定な空模様も、夕暮れ時になると、ほんの少しではあるが落ち着き、時折吹く、涼しげな風に救われた気持ちになる、そうしたことを感じたときに抱く、心の余裕みたいなものは平和であることの裏返しとも思えた、決して劇的な出来事ではなく、人生で出会う頻度としては圧倒的にそちらの方が多いのに、あまりに当たり前すぎて、そうした何気ないことに対する幸せや感謝の気持ちが薄れているのではないか、そんなことを改めて実感させられた『なんでもない』ことの素晴らしさは、『なんでもない』からこそ、気負わずに自分を見つめ直すきっかけを与えてくれそうな、時に頭の中を柔らかく解きほぐして、和みの時間の必要性を教えてくれる、そんな心の余裕が平和への第一歩なのかもしれないと私には思われた。
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穏やかに過ぎる夏の日。こんな風に過ごせる夏の日は平和だ。今や外に出るのさえ危ないほどの気温。だから余計に憧れてしまった。なんでもない・・・のは人間だけで周囲はドタバタしていて、それも楽しかったです。(3歳1か月)
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図書館でみかけた。 きれいだなぁ、デ・ラ・メアってどんな感じなんだろう、と思っていたので借りた。 'Summer Evening'という詩の絵本。 山吹色から橙色へ、夏の空は美しくて秋とは違う切なさがある。 短い詩から想起される風景を優しく描いている。 と...
図書館でみかけた。 きれいだなぁ、デ・ラ・メアってどんな感じなんだろう、と思っていたので借りた。 'Summer Evening'という詩の絵本。 山吹色から橙色へ、夏の空は美しくて秋とは違う切なさがある。 短い詩から想起される風景を優しく描いている。 とにかく絵がかわいいし、ゆったりした時の流れを感じられる。 個人的に、私の夏の仕事は昨日で終わり、今日は休みで一日寝ていたけれど、私が寝ているときにも世界はまわっているんだなぁ、という反省と感慨があります。笑 全体として、人間の想像力の脳の速さ、詩のふところの深さを感じました。
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