伯爵夫人 の商品レビュー
重みを感じさせながらもするすると進む文章、鉄製の馬車のような心持ち、読み心地。 妖しさと高踏と幼さと危うさを載せて、文章は走る。 ひたひたと近づく戦争の匂いを漂わせながら。 謎の「伯爵夫人」を見つめる二郎は、翻弄され幻の世界へ。 「胸もとから下腹にかけての思ったよりやわらか...
重みを感じさせながらもするすると進む文章、鉄製の馬車のような心持ち、読み心地。 妖しさと高踏と幼さと危うさを載せて、文章は走る。 ひたひたと近づく戦争の匂いを漂わせながら。 謎の「伯爵夫人」を見つめる二郎は、翻弄され幻の世界へ。 「胸もとから下腹にかけての思ったよりやわらかな肉の揺らぎを (後略) 」 赤黒いエロスと気品と下品とを同時に愛せるなら、じっくり賞味できる作品だと思う。 印象的な擬音も気に入った。ぷへー。 (氏の評論等よりもぜんぜん読みやすいよー)
Posted by
戦争に伴う狂気や悲哀もエロティックに伴う昂りや刹那的な快楽も、どちらも人間の内側から沸きいづるものであるにも関わらず、この物語を読むと、自分とは関係のない遠くのこととして感じさせられてしまう。 飲み込まれないための反作用か? 現実と虚構、内側と外側、自と他の判別がつかなくなる感...
戦争に伴う狂気や悲哀もエロティックに伴う昂りや刹那的な快楽も、どちらも人間の内側から沸きいづるものであるにも関わらず、この物語を読むと、自分とは関係のない遠くのこととして感じさせられてしまう。 飲み込まれないための反作用か? 現実と虚構、内側と外側、自と他の判別がつかなくなる感覚で巡っていく物語であった。 もしかすると、大人になるというのは、この曖昧さを受け止めれるようになることかもしれない。 胡蝶の夢は、どちらの状態もあるがままにリアルとして受け入れないといけないのかもしれんな。
Posted by
大正から昭和初期にかけての退廃的でエロティックな雰囲気が満ちた作品で、映画や舞台を観ているように読み進めるが、途中にちょいちょい入ってくる「ぷへー」がどうも気になって興醒めしてまう。
Posted by
たった1日の出来事。 なのに、つまりにつまった性と生き方。 時代の匂いを感じるが、俄には信じられない。 二郎と同じように信じられない。
Posted by
こういうのが教養なのだろうか?よくわからないが。 女性読者には受け入れ可能なのか?話の時代背景はともかく、全体的に昭和の倫理観が貫かれ、和製英語で言うところのオールドファッション…
Posted by
「ボヴァリー夫人論」を読んで、そのあまりの内容の濃さに驚愕し、ここ20年ばかしあまり読んでいなかった蓮實重彦の本をキャッチ・アップ中。 そういうなかで、三島由紀夫賞受賞での記者会見が話題になった「伯爵夫人」を遅ればせながら、読んでみた。 いや〜、これはものすごく強烈な本だな〜...
「ボヴァリー夫人論」を読んで、そのあまりの内容の濃さに驚愕し、ここ20年ばかしあまり読んでいなかった蓮實重彦の本をキャッチ・アップ中。 そういうなかで、三島由紀夫賞受賞での記者会見が話題になった「伯爵夫人」を遅ればせながら、読んでみた。 いや〜、これはものすごく強烈な本だな〜。 この本の強烈さに比べれば、あの会見は普通、というのも変だが、あまり驚くべきものではないとさえ思える。 知らずに読めば、80才の元東大総長が書いたものとは、絶対に思わない過激さだとおもう。 この年になってのこの暴走ぶり、怪物ぶりには、次を期待せずにはいられないものがある。 次とは、「ボヴァリー夫人論」とあわせてライフワークとしていた「ジョン・フォード論」である。 この2冊がライフワークともう何十年も言っていて、一向にでる気配のなかった「ボヴァリー夫人論」が5年前にでて、そして、この過激な映画へのオマージュがたくさん含まれた「伯爵夫人」。 蓮見さんの「ジョン・フォード論」を読む日もそんなに遠くないのかも。。。
Posted by
第二次大戦直前のやんごとなき家庭で繰り広げられる,何とも凄まじい男女の生活が伯爵夫人の遍歴に絡めて語られる.二朗は周りの女たちに翻弄される形で話が進むが,最後に出てくる従妹の蓬子の告白が楽しめた.放送禁止用語が次々と出てくるのには,少し驚いたが,妙齢の女はみんな男の生態をよく知っ...
第二次大戦直前のやんごとなき家庭で繰り広げられる,何とも凄まじい男女の生活が伯爵夫人の遍歴に絡めて語られる.二朗は周りの女たちに翻弄される形で話が進むが,最後に出てくる従妹の蓬子の告白が楽しめた.放送禁止用語が次々と出てくるのには,少し驚いたが,妙齢の女はみんな男の生態をよく知っているのだと感心した.
Posted by
テント芝居の活劇物のような、いかがわしい疾走感。華族、秘密組織、戦争の影。物語はその中を、明け透けな官能を推進力に駆け抜けていく。一気読みした。おもしろかった。得るものはない。それでいい。筒井康隆の作品を読んだ時も思ったが、優れた筆力を持つ人の文章を楽しむのに、官能小説はよい舞台...
テント芝居の活劇物のような、いかがわしい疾走感。華族、秘密組織、戦争の影。物語はその中を、明け透けな官能を推進力に駆け抜けていく。一気読みした。おもしろかった。得るものはない。それでいい。筒井康隆の作品を読んだ時も思ったが、優れた筆力を持つ人の文章を楽しむのに、官能小説はよい舞台だと思う。
Posted by
ぷへーという擬音は笑っちゃったけど、ばふりばふりという音は、ゆっくりと動く回転ドアは確かにそんな風に聞こえたなあと思いだした。
Posted by
蓮實は、何者にもなりたくなかったのであろう。少なくとも、何者にもなりたくない自分が公の自分なのであろう。文学賞を受けることで小説家の肩書を増やすことは、蓮實にとって何者にもなりたくない自分を何者かにする行為である。何者にもなりたくなかったからこそ、あらゆる分野での活躍が必要だった...
蓮實は、何者にもなりたくなかったのであろう。少なくとも、何者にもなりたくない自分が公の自分なのであろう。文学賞を受けることで小説家の肩書を増やすことは、蓮實にとって何者にもなりたくない自分を何者かにする行為である。何者にもなりたくなかったからこそ、あらゆる分野での活躍が必要だったのではなかろうか。蓮實の業の深さにシビれる。(岡ノ谷一夫)
Posted by