税務判例に強くなる本 の商品レビュー
本書では、課税実務の現場にリーガルマインドを持ち込むため、税務訴訟に適用されるルールや税務判例の分析方法について解説されている。扱われている税務判例はすべて納税者敗訴判決であるが、どういった点について裁判所は間違った判決をしているかについて批判的に考えることができた。そもそも裁判...
本書では、課税実務の現場にリーガルマインドを持ち込むため、税務訴訟に適用されるルールや税務判例の分析方法について解説されている。扱われている税務判例はすべて納税者敗訴判決であるが、どういった点について裁判所は間違った判決をしているかについて批判的に考えることができた。そもそも裁判所の判断というものは、必ずしも「正解」というわけではなく、ある特定の事案における1つの「仮説」にすぎないということが理解できる。これを逆手に取れば課税実務の現場にも納税者に有利な解釈として応用できるケースもあると考える。 P112 本裁判例の判断枠組みについて 一般に、相続財産の「時価」が争点となっている事案において、裁判所は相続税法22条の「時価」を客観的交換価値と解した上で、客観的交換価値を一義的に確定することは困難であり、課税実務上、評価基本通達で規定されている画一的な評価方法によって相続財産を評価しており、評価基本通達で画一的に評価する方が納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から合理的であるとして、①評価基本通達で定められた評価方式が一般的に合理的である場合には、②評価基本通達によっては時価を適切に算定できない特別の事情のない限り、評価基本通達によって評価された価額を、事実上、「時価」と推認するという判断枠組みを採っています。 そして、①の評価基本通達の一般的合理性の存否については、課税庁に立証責任があると解されています。そもそも取消訴訟において、課税処分の適法性の立証は課税庁にあるため、本来、「時価」の立証責任は課税庁側にあるのですが、評価基本通達によって画一的に評価することのメリットを考慮し、課税庁側の立証責任が軽減されているというわけです。 P122 やや余談にはなりますが、路線価の評定に当たって、すべての路線に不動産鑑定士等による鑑定評価がなされているわけではないのが実態です。別件の税務訴訟において、筆者は、争点となっている土地に適用される路線価の評定根拠資料を情報公開請求により入手しましたが、開示されたのは「主要標準宅地標準宅地の仲値及び評価基準額の評定調書」というタイトルの書類しかありませんでした。そこで、その理由を課税庁の担当者に確認したところ、すべての路線について不動産鑑定士等による鑑定評価をしているわけではないと説明されました。つまり、路線価の評定の実態は、評価基本通達14で規定されているどおりには運用されていないということのようです。 このように、路線価の評定は、評価基本通達14で定める手続きが必ずしも実際に履践されているわけではないため、路線価の一般的合理性は、本来、客観的な根拠資料によって審理判断されなければならないと考えます。 P163 給与所得か事業所得かの判断基準 裁判所の判断のメルクマールをまとめたものは、以下のとおりです。 a 職業の一般的なイメージが、事業所得者か?給与所得者か? b 納税者が物理的に事業所を開設しているか?開設している場合は、事業所得。 c 争点となっている収入以外に主たる収入があり、それが事業所得である場合で、かつ、当該主たる収入と争点となっている収入に事業関連性があるか?その場合は、争点となっている収入についても事業所得。 d 争点となっている収入以外に主たる収入があり、それが給与所得か?その場合は、争点となっている収入も給与所得。 e 業務の提供先が1社か?その場合は、給与所得。 f 納税者にそれなりの費用負担があるか?その場合は、事業所得。
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