もうひとつの「帝銀事件」 の商品レビュー
gacco「法心理・司法臨床:法学と心理学の学融」Week1第6回参考文献 https://lms.gacco.org/courses/course-v1:gacco+ga100+2018_03/about
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1948年1月26日、ひとりの男が東京の帝国銀行椎名町支店を 訪れた。赤痢の予防薬の服用との名目で行員等に青酸化合物 を飲ませ12人の命と、現金16万円を奪った。 帝銀事件はテンペラ画家・平沢貞道が犯人とされ、死刑が宣告 されたのだが、刑の執行がされぬまま1987年に9...
1948年1月26日、ひとりの男が東京の帝国銀行椎名町支店を 訪れた。赤痢の予防薬の服用との名目で行員等に青酸化合物 を飲ませ12人の命と、現金16万円を奪った。 帝銀事件はテンペラ画家・平沢貞道が犯人とされ、死刑が宣告 されたのだが、刑の執行がされぬまま1987年に95歳で獄死した。 冤罪事件ではなかったのかと思う事件のひとつである。そもそも 物的証拠が皆無な事件だ。目撃証言と平沢氏の自白のみで死刑 を確定した事件なのではないか。 これまで行われて来た再審請求はことごとく退けられて来た。 平沢氏の養子となった男性が死亡したことを受けて、弁護団は 別の親族を探して第20次再審請求を起こした。 本書は第20次再審請求に伴って心理学者である著者が、平沢氏 の供述と目撃証言を分析した結果の、一般書籍化だ。 否認から一転、自白に転じ、その後は最後まで無実を叫び続けた 人は、やはり冤罪で獄に繋がれ続けていたのだとうろ確信した。 真犯人であれば「犯人でしか知り得ない事実」があるはずだ。 供述のなかでそれは一切出て来ない。それだけではない。 青酸化合物の入手経路どころか、犯行当日、どの道を通って 帝国銀行まで行ったのかさえ取調官の誘導がなければ筋の 通った話が出来ていない。 人はいかにして虚偽自白に落ちて行くのか。その過程が恐ろしい。 他人事ではない。極々細い糸が私を、あなたを、何かの事件に 結び付けないことはないとは言い切れないのだから。 私は長年、物的証拠のなさで帝銀事件は冤罪事件ではないかと 思っていたのだが、本書での綿密な供述の分析で改めてその 想いを強くした。 この国の司法は無実の人を長年、獄に留め自然死を待っていたの ではないだろうか。どこかで「無実ではなかったか」との疑問を抱え ながら。だから、歴代の法務大臣は平沢氏の死刑執行命令書に サインが出来なかったのではないだろうか。 著者の名前をどこかで見た覚えがあったのだが、甲山事件での 目撃証言の分析をした人だったのだな。この甲山事件も無罪確定 まで長い年月が掛かった事件だった。 「疑わしきは被告の利益に」。この原則が守られていたのならば、 冤罪事件は生まれないのだけれどね。
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