オスマン帝国500年の平和 の商品レビュー
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※このレビューにはネタバレを含みます
世界史も地理も詳しくないのですが、大変興味深く読みました。 学術文庫というのも初めて読みましたが、文庫にコンパクトにまとまっており、面白いです。 コンパクトにするためにある程度端折ってはありますが、わかりやすく読みやすく、歴史や文化などに触れ絵や図なども豊富です。 日本とは異なる価値観、考え方、それでも同じ人類として似通った判断をする部分もあり、それらのことに思いを馳せて読むのも面白かったです。 周りの意見を聞く。美徳であり弱点でもあるという言葉が個人的には頷かされました。
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500年の平和、とはオスマン帝国の歴史のうち14世紀から18世紀までのことを指す、と筆者は言っている。その5世紀の中では外征も内乱も起こっているから完全なる平和ではなく、このタイトルに疑問を呈する向きもあるが、パクスロマーナもパクスアメリカーナも、戦争のない状態ではなく民族を超え...
500年の平和、とはオスマン帝国の歴史のうち14世紀から18世紀までのことを指す、と筆者は言っている。その5世紀の中では外征も内乱も起こっているから完全なる平和ではなく、このタイトルに疑問を呈する向きもあるが、パクスロマーナもパクスアメリカーナも、戦争のない状態ではなく民族を超えた覇権によりその勢力内で争う必要がなくなった状態を指している。オスマン帝国は多民族を支配するためにイスラム法の枠組みを活用し、軍事の点では欧州先進国の技術を採り入れ火力の集中使用などではむしろリードした。レコンキスタのような宗教的不寛容から逃れたユダヤ人を受け入れて商業と金融の発達を促した点も含めて、オスマン帝国はパクス呼ぶべき一時代を画したと言うことができる。 そして、ローマの覇権がゲルマン人に突き崩されたように、オスマン帝国にも欧州列強の帝国主義のチャレンジを受ける時代がやってくる。ここに至り、オスマン帝国には2つの選択肢があった、と筆者は言う。当時の支配地域全体を統合的に近代国家へ脱皮させる方法と、諸民族を「植民地」と見做してイスタンブルがこれを支配する方法。スルタンとその官僚達は前者を志向してまるで明治維新の先行例のような改革を続けるが、欧州列強はオスマン帝国の現状を後者と見做し、バルカンやアラブの諸民族の「解放」を掲げて介入し、オスマン帝国のユニバーサリズムを崩壊させていく。 その結果として今日の国境線があり、民族問題がある。ヘゲモニーの中で民族や国境を意識する必要のなかった時代と、民族毎に国家を形成することが当然とされる時代。後者を当然視するのは現代の視点に過ぎないのだが、そこから見れば宗教や民族が入り組んだ状態で過ごすことを許容してきたオスマン帝国時代はむしろ問題の元凶ということになってしまう。現代でも何となく蔓延るオスマン帝国悪玉論は、ある意味帝国主義の所産とも言え、その時代を正しく知ることから始めないと、問題の根源を考えることはできないのだと思う。 もう少し言えば、トルコという国民国家も昔はなかった。セルビアやギリシャだけでなくトルコも含めて「民族」が形成される歴史として読むこともできる。
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